誰かに可哀そうと思われたかったんだと思う。初めから気が付いていたのに、知らないふりをしていた。痛そう、可哀そう。ほんとうはこんなことしたくないのに、ここ以外の場所は知らないし怖いから外に出られない。 「あのひとに会いたい」 ずっと昔に大事にしていた何かに会いたい気がする。胸がとても痛い。大事な何かを思うと、思い出しそうでままならない。曖昧なまま外を見ると、門がある。だらしなく爪の伸びた指で立ち上がると、門をくぐった。 「あ」 門の中はいっぱいの百合だった。その中に女が笑っている。綺麗だと思う。近くに行きたい。 「ひさしぶり」 こちらを見て女が笑う。知っている。俺はこのひとを知っている。 「悠仁、寂しかったろうに」 「あの、」 名前を呼ぼうとして、口をふさがれた。手は冷たかった。百合が咲いている。全部白くて、天国のような美しさ。ここは外だけど怖くない。痛いことは何もなさそうだった。 「悠仁」 女はさっきからずっと綺麗だ。初めて会った時から、ずっと綺麗だ。頭を撫でられる。百合の匂い。これも怖くないし、寂しくない。今の俺は全然可哀そうじゃない。 「あんたに会いたかったんだ」 俺は。髪を梳いてやると、その隙間からいっぱいの百合が見えた。今は思い出しても大丈夫そうだった。苦しくない。辛くない。庭も綺麗だったし、門の中はずっと暖かい。 「これからはもう怖くないな」 久々に笑うと、女も嬉しそうにした。眠い。すごく眠い。好きだから眠いのか。安心するのか。もう何も怖くないからか。女が抱きしめてくれる。優しそうな顔をしている。俺はゆっくり目を閉じてそして眠った。 暫し邂逅を待たれよ |