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 草は愆つ。花は断つ。花の名前など知ったことではない。種類だけぼんやり覚えていて、花言葉やら時季やらは聞いたとて記憶の彼方だった。
 あの時、女は青い花を持っていた。どこかで摘んできたらしかった。自分でもなぜだか知らないが、その青い花の名前と、花言葉だけ、どこで聞いたのやらしっかり覚えていた。

「△」

 いつも自分を恥じていた。女の色香にぼんやりする己を、心の奥で恥じていた。顔が上げられず、目線を落とし枯れた草を眺めた。その下に乾いた土が狼狽えている。己はこの草よりましだろうか、それとも萎れた花以下か。畜生よりか無様ではないか、とは思うものの女の切り揃えられた髪を見るとやはり自分が汚らしく思えた。

「△、その花は」

 振り返った女の、陽光に照らされた顔は、苛烈なまでに美しかった。

「これか」

 あの時の女の顔の美しさを、自分は生涯忘れないだろうと思った。

「そうだ、摘んできたのか」
「そう、綺麗だったもんで」
「お前に似合うな」
「そうかな、そりゃあ」

 どうも、と女が言い終わる前に、さっさと奪い取って、耳元に飾ってやる。己を見上げる女の瞳が、その美しさに耐えきれない獣のような己を映しては、恥を捨てるように訴えかけていた。

「△、お前は、本当に、」

 そこから先は何をどう言ったのか殆ど覚えていない。ただただ、捲し立てるように女の美しさを褒め、どれだけ自分がその美しさに屈したいのか従えられたいのか熱弁したような記憶がある。唯一よく覚えているのは最後の、

「俺を、お前のものにしてくれ」

 それから、従者らしく膝を折って頭を垂れ、その白い掌に口付けた事だけよく覚えている。

「脹相」

 私の脹相、と己の両頬に手を添えて上を向かせる女は、やはり世界を欺く程の神々しさだった。


駄目になる覚悟
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