「あなたに」 彼女に小さな手提げ袋を押し付ける。戸惑いながらも受け取ると、彼女は暫く外袋のデザインを眺めていた。 「お土産?」 「まあそんなところです」 「へえ、なんだろう」 開けてください、と促す。細い指が中身を取り出すと、黒くて小さい箱にブランド名が刻印してあった。 「あ、リップ」 蓋を開けて中身を取り出す。斜めにカットされた赤いリップスティックが美しく姿を現す。 「珍しいな、こんなの買ってくるなんて」 「あなたに似合うと思って」 前から思っていた。このひとにはきっとすごく赤が似合うんだろう。 「いま塗ってみてください」 「いま?」 「見てみたいので」 あなたに絶対似合う、と念押しする。彼女は徐に鏡を取り出してリップスティックを唇に押し当てた。 「いい色だね」 するりと唇の上を撫ぜる。赤く唇が染まる。血のような危うさを讃えて、彼女は唇同士を擦り合わせた。 「…やっぱり」 「どうかな」 「とてもお似合いです、やはりあなたには赤がいい」 やっぱり、買ってきて良かったなと思った。 あなたの唇を愛と呼んでもいいですか |