欲しい、綺麗、と思った。 「脹相」 朽ちた呪霊の傍らで膝をついて血を吐く女は、夏の幻のようだった。 「終わったの?」 反転術式を使わず、乱雑に繋ぎ合わせた縫合痕をなぞる。汚らしく傷跡が隆起して、血が滲んでいる。 「痛むか」 「いや、ちっとも」 寝台に横たわっていた。女は眠そうな顔をしていた。窓の向こうは暗く淀んで、灰色にくすんだ雲が垂れ込めていた。 「こんなに大きな傷痕を、」 「でも、痛くない、全然」 切られるとき、熱い、と女は言っていた。痛くない。熱い。目を瞑る女の横顔に曇天の色が滲んでいる。 「ひかり、」 光。そう、お前は俺の光。ほしい、と思う。そうして願っているうちに、空はどんどん暗くなる。女の横顔は相変わらず綺麗だ。 「光?」 潤んだ瞳が自分を見ていた。その瞳に白熱電球の光が反射して美しかった。 「△…お前は」 女がいなかったら、自分は一体今頃どうしていたのだろう。無機質な部屋の中にぼんやり血の匂いがする。頭痛い。ぐらぐらする。女は他人事みたいに傷を撫でて欠伸をした。 「脹相、お前も」 お前も私のひかり。うわごとのように呟いて、女は疲れたのかそのまま眠った。 投げ出された指先を絡め取り、小さな爪に口付けを落として自分も横で眠った。 柘榴の半夜 |