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「ねえ」

 呪いだけが女の内に巣食う。子宮に絡みついて、毎月血は滴り落ちる。

「△」

 こっち向いて、と願う。名前呼んでほしい。

「悟」

 声がいい。肌がいい。すべてが心地よい。その眼差し、髪、一瞬の吐息が女神のようだ。

「僕の△」

 呪いを受けた女は日に日に起きていられる時間が短くなっていった。昨日は半日以上寝ていた。何の呪いかは知らなかった。何処で呪われたのかも、ちっとも分からなかった。

「僕にさえ祓えない」

 呪いは祓おうとすればするほど女に絡みついて、自分を嘲笑っているようだった。

「私は平気」

 呪いと女はどんどん一つになっていった。初めは背中から黒く纏わりついていたのに、最近では子宮のあたりに居座るようになっていた。居心地がいいのか、呪いは眠たそうに女の全身に絡んだ。

「僕だけの△なのに」

 どうして祓えないのか。なんで子宮に纏わりつくのか。

「僕は△のものなのに」

 なんで呪いなんかに邪魔されるのか。なんで呪いなんかが視えるのか。

「君を死なせたくないのに」

 辛い。苦しい。大事にしたい。優しくしたい。ずっと一緒に居たい。居なくならないでほしい。触っていたい。

「悟、私は平気」

 平気なんかじゃないくせに、と思う。

「僕、君が一緒に死んでほしいって言ってくれたら、迷わず一緒に死ぬんだけど」

 でもそんなこときっと言ってくれない。言ってほしいのに、と思う。呪いで縛ってほしい。

「悟を死なせるわけにはいかないよ」

 死なせてほしい。一緒に。愛と言う歪んだ呪いで縛って。

「君になら殺されてもいいのに」

 名前を呼んで。一人にしないで。ずっと一緒なのに。


夢の淵で零落
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