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もともと貧血らしいことは、本人から聞いていた。
ベットの上で少し青白い顔をして眠る同級生を見つめながら、自分はカーテンを静かに閉めて横の椅子に腰かけた。

「…まだ、良くならぬか」

小声で、彼女を起こさないようにそっと耳元で尋ねる。唇の色が悪くて、乾いていた。

「……」

それにおずおずと指を伸ばして、触れるか触れないかくらいのところで浅く息を感じる。生温かくて、背筋がぞくりとする。

「▽」

普段は名字で呼んでいるのだった。それを、保健室に二人きりで、しかも本人が眠っているのをいいことに、ちょっと下の名前で呼んでみる。むず痒い、と自分の喉元を引っ掻いた。

「……なあ、起きてはいるまい」

なあ、ともう一度訊く。浅く息の漏れる。
それに、自分の唇を寄せて、あと数センチもないところで急に悪いことをしているような気分になって、顔を離した。
相変わらず呼吸は浅くて喉の奥でひゅうひゅうと鳴るのが聞こえる。

「卑怯な男だな、俺は」

呆れたように自分を笑う。卑怯だ、と思う。本人にはっきり言えばいいものを。

「俺はこんな男だぞ、▽」

言いながら顔を近づける。髪、いいにおいだなあと呑気なことを考えて、啄ばむように唇を合わせる。

「いまの、忘れてくれるなよ」

心なしか先ほどより血色の好い彼女の顔に満足して、そのまま保健室を出た。




知られざる少女の為に
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