唐突に、そういう気になった。 「痛っ」 首筋を押さえて痛そうな顔をする。女の白い肌の上に、犬のような歯型がくっきり残っている。 「いきなりなにすんのさ、幸村」 「咬みたくなった」 「はあ?」 咬みたくなったって、なんだよ。赤く咬まれた痕には、自分の唾液がてろてろと艶めかしく光っている。ちょっと、欲情しそうになる。 「美味そうだと思ったのだ」 「突然咬みたくなっちゃうくらい美味しそうに見えんの」 「見える」 「幸村……カニバリズムかよ」 「俺は人など食わん」 「あんたいま私のこと食おうとしただろうが」 「してない、咬みたかっただけだ」 そうだ、咬んだみたかったのだ。その柔らかい皮膚の上に歯を立てて、ゆっくりと力を入れて、甘噛みよりは強く、でも血が出ないくらいには弱く、その滑らかな肌が、一体どんな味がするのか、確かめてみたかった。 「で、どうなの?美味しかったの?」 にやにや笑いながら、細い指で噛み痕を撫ぜている。うっすら、内出血しているようだ。 「――▽」 細い体に凭れかかると、横で小さく笑う音が聞こえた。自分で咬んだ痕に、指を這わせる。自分はこんな歯並びが悪かったろうかと思いながら、歯型の上で目を瞑った。 狂おしいほどに紅 |