弾けるように目が覚めた。泥のにおいがする。血生臭い。自分の手の平に、染め上げたような血が飛んでいるのをみて、ああここは戦場であったかと今更思った。 佐助は帰らねばならない。自分の主が待っている。癖のない艶やかな黒髪を、また櫛で梳かせてもらうには、生きて、帰らねばならない。 「▽様」 あの髪が欲しかった。するすると、自分の指を通り抜ける、櫛の隙間を流れる黒髪が、欲しかった。佐助は帰らねばならない。 「行かなきゃ、おれ、もう」 無理やり身体を起こすと、ひび割れた古傷と新しい傷との間で骨が軋んだ。 「帰るよ、▽様、おれさまだけの主様だから、さ」 あの髪は自分以外の誰にも触らせないと決め込んでいる。佐助は帰らねばならない。 いいから劣情に頷いてしまえよ |