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「はあ」

ばさりと、気怠い躰をベットの上に放り投げる。枕の上で頭を左右に動かすと、中でしゃりしゃりとパイルが音を立てる。ちょっと、この音が好きだったりする。自分の体温より幾分かひんやりしたシーツの上で、私服のまま少し寝る。このまま寝過ごして、できれば朝になっていてほしい。でも汗ばんだ躰をそのままにできない。本当は風呂に入りたい。でも、躰が冷えるとわかっていても、普段はシャワーで済ます。どうしても手っ取り早いほうを選びがちだ。

「▽……帰ってんのか?」

低く、柔らかい声が向こうから聞こえてくる。アパートの安っぽい壁に反響して、私の耳に届く。

「うん、いま帰ったとこ」

ベットの上に身を横たえたままで、顔だけを声のしたほうへ向ける。なんとなくぼうっとして、頭が痛いような気もする。今にも閉じてしまいそうな目で、大きな影のゆっくりと近づくのが確かに見えた。

「…▽、服のままで寝てんじゃねえ」
「…わかってるよ」
「わかってるって言うな、ほら、さっさとシャワー浴びちまえ」

うん、と返事をして重い躰を無理やり起こす。小十郎がボイラの給湯スイッチを押すのと同時に、後ろからもたれかかるように抱き着く。厚みのある躰に巻き付けた私の腕を、かさついた大きな手が撫ぜる。

「……なんかあったのか」
「いや、べつに」
「にしちゃあ、随分と落ち込んでやがるな」
「べつに、疲れてるだけ」

そうか、と言いながら私の手首を口元に運んで(小十郎の手に比較すると、自分の手が随分細く見えた)薄い唇が内側を滑るように動く。この男は、特に理由をきくということをしない。代わりに私に何かあると大抵キスをしてくる。どうも、この男はキスをするのが好きらしかった。

「…とにかく、まあ、シャワー浴びたらすっきりすんだろ」

不器用に私を慰めて傍に置いてあったバスタオルを投げつけてくる。痛い。痛いわけねえだろ。ドアを閉める間際の後ろ姿が、すごく愛しく感じる。




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