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ぐずぐずと鼻を啜る彼女の背中を撫でる。この間仕事でひどいミスをした。もともと体調の悪い時期に大きな仕事が回ってきたものだから、半分くらいは、失敗しても仕方のないことだと思うが、彼女は職場の上司にも随分信頼されていて、それで余計に、落ち込んでいた。

「ああ、もう、なんで」

あんな簡単な仕事を、と言って、また涙が溢れる。彼女は有能な社員だ。プライドが高いだけ、一度折れると中々元に戻れない。

「ね、ほんとうはあんなはずじゃなかったの、ちゃんといつも通り仕事してた」

確かにいつも通り仕事をしていた。自分が見た限りでは。でも、本当は、随分苦しかったのだと思う。あのときは熱もあった。病院に行くのを奨めたが、彼女は断って仕事を続けた。そういうところが好きだった。

「幸村、わたし、怠けてたのかな」
「そんなことはない、お前が努力しているのは俺がいちばんよく知っている」
「でも、わたし、きっと、会社に迷惑かけた」
「あの程度で駄目になるような会社ならば、即刻やめてしまえ」

実際上司も大して気にしていなかった。それでも罪悪感は彼女の心を侵食していく。涙が端正なスーツを滑る。彼女の肩を抱く。幸村、とすがるような声で呼ばれる。いま、好きだと言ったら、きっと彼女を手に入れられる気がする。きっと自分にすがってくれる。

「……ねえ、幸村、慰めてよ」

彼女が寄りかかってくる。一瞬、躊躇して、正面から抱き締める。細い腕が、弱々しく自分に巻き付く。いま、キスをしたら、彼女はどんな顔をするのか。

「……▽、余計なことは考えるな、いまは俺の胸で泣け」

耳元で囁く。熱い息が彼女の耳に吸い込まれる。いま、愛していると言ったら、彼女はどんな顔をするのだろうか。




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