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前から約束していた。最近公開したアクション映画の最新作を観に行く。お昼はラーメンを二人で食べて、上映までの時間は二人で映画館の周りをうろうろしていた。

「やべーな、まじで楽しみ」

チュロスとポップコーンを両手に持って、元親は隻眼を輝かせながらスクリーンを見つめている。上演まであと5分。客は私たちも含めて7人しかいない。

「にしても客すくねーな…」
「田舎だもの、こんなもんでしょ」

それに、平日だし。たまたま学校行事の関係で、私たちは平日に貴重な2連休を獲得していた。どうせ学年末で暇で、することもなく、元親が無類の映画好きだったこともあって、私から誘ったのだった。

「いやあ、誘ってくれてありがとなあ、観たかったんだよ、ほんと」

元親はきゃあきゃあ言いながらポップコーンを貪っている。上演まであと3分。この調子だと序盤でポップコーンもチュロスも尽きる。

「まあ、君とデートをするのは楽しいし、ね」

まだ何も映っていない真っ暗なスクリーンに向かって呟く。元親はぼりぼりとポップコーンを食べ続けている。

「俺も、▽とデートするのだいすきだぜ」

いつもよりか高い声で嬉しそうに話す。そういう割に、私たちは付き合っていない。校内ではいつも一緒にいるから、勘違いされたり、噂になることも随分あるのだが。たしかにカップルみたいにべたべたしたり、はい、あーん、なんちゃってねとかやってはいるけど。でも、付き合っていない。別にそれでもいいんだけど、でも。

「なあ、これ、ちょっと食うか?」

元親がチュロスを突き出してくる。まだ彼は口をつけていない。どういうつもりかは知らない。いつものこと。何を考えているかはよく分からない。

「あー、うん、ちょっとちょうだい」

口を開ける。差し出されたチュロスが、少し歯に当たった。もう少し口開けろ、はいはい、あーん、ほら、食えって、あー、うん。

「おめえ、あんまり甘いもん、食わねえだろ、どうだ、うまいか」

普段は甘いものは好んで食べない。私の性質を元親はよく分かっている。

「…うん。おいしい」

シナモン味は、もっと甘いかと思ってた。案外と美味しい。もぐもぐと咀嚼する私に、元親が顔を近づけてくる。

「な、うまいだろ」

なあ、ともう一度訊くのに、うん、と頷いた。元親はまだ顔を近づけてくる。もう、ほんとうに、キスできそうな距離で、まだ彼の隻眼は離れてゆかない。

「ねえ、どうし」

たの、と続けようとして、薄い唇で塞がれた。え、と思う間もなく、一瞬で離れていく。上演開始のブザーが鳴った。辺りが暗くなる。元親の顔は見えない。耳元で囁かれる。

「▽、おまえのくち、うまそうなんだよ」

スクリーンに映画の予告が表示されていく。そんなものはもう目に入らない。元親のほうにぱっと振り向く。いつもより穏やかな隻眼が自分を見つめている。息が止まりそうだった。

「なあ、この映画終わったらよ、おれ、告白しようと思ってんだ」

言われなくてもわかってる、そうじゃなきゃ困る、茹で蛸のようになりながら私がぶつぶつと呟くのに、元親は嬉しそうにしてスクリーンを眺めていた。




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