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気が付いたときには、もう手遅れだった。ぷく、と気泡が口の端から溢れる。主人の用意してくれた藻をいじりながら、なんということもなく部屋の中を見詰める。全身を包む鱗が憎い。すべてはぎ取れば、ひとに成れるような気もする。一度だけ、一枚だけ、剥いで見たことがある。一瞬で涙がでた。吐き気がするくらいに痛かった。やはりひとには成れぬのか。元就はひとに成りたい。

「ほら、元就、ご飯だよ」

主人の白い指の先から、ぽろぽろと飯が落ちてくる。水槽の底に敷かれている小石を蹴って、水の上へ顔を出す。主人の瞳が一層黒く見える。その瞳の奥が笑って、自分を見下ろしている。

「いいこだなー、元就」

暫く自分を見詰めたあと、主人は餌の袋を綺麗にゴムでしばって、水槽の横にそうっと置いた。飯で口をいっぱいにしながら主人を目で追う。やっぱり、ひとに成ってみたい、と小さく思った。




柔らかな短躯
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