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こうなることは分かっていた。目の前の女はもうじき死ぬ。今はまだ六月の終りで、梅雨は明けていない。無闇に開け放った縁側から、重たい雨が満ちてくる。息が重い。女に触れることも叶わない。病で腐り落ちた肌を見て、吉継は己を羞じた。

「吉継」

女の声が未だに聞こえる。赤の唇が、まだ自分の側で笑っている気がする。横たわる女の一瞬の吐息が、まだ柔らかい。苦しくはないのか。辛くはなかろうか。

「▽」

思わず呼ぶ。美しかった肌が腐っている。艶のあった髪が枯れている。己の過ちで、女が死ぬんだと思うと、悲しくてならない。今にも、首許を切り裂いてしまいたくなる。

「▽」

あのとき、自分は血が上っていた。女が欲しい。あの女が欲しい。宝石を埋め込んだような瞳で、自分を見て欲しい。あの唇に名を呼ばれてみたい。吉継と、呼んで欲しい。女が欲しい。欲しい、と思って、自分は女を汚してしまった。後悔している。

「死ぬか」

女の息が途切れた。結局、少しも苦しそうにしなかった。雨の音が強くなる。自分の唯一のひかりが途切れてしまった。悔しい。目の奥がじわじわと熱くなる。自分が死ねばよかった。後悔した。




沼の底にひかりあり
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