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この間の戦でね、白い肌をした女がひとり死んだらしいよと聞いて、そのまま裸足で飛び出した。上でまつ姉ちゃんの声が聞こえたが、足は一向に止まらなかった。人様の城だというのに遠慮もなしにどたどたと廊下を踏みつけ、障子を心地のいいほど大袈裟に横へと開け放つ。畳の上でかつてないほどひもじいような、みっともない顔をした半兵衛を見つけて、ああ、とだけ思っていた。

「どうだい、慶次君、綺麗だろう」
「……半兵衛、おまえ」
「この間の戦だ、簡単なものだった」

本当に簡単なものだったんだと半兵衛が言う。死に体であるのに、吐き気を催すくらい彼女は綺麗だった。それからね、と紫の薄い唇が室内の空気を揺らす。

「それから、▽は間もなく死んだよ。戦が終わって五日目の朝だった。戦の後にひどい怪我を負ったって聞いてね、僕も行ったんだよ、その部屋に。なんとか元気づけようと思ってね、彼女の好きだった百合の花を用意させたんだ。障子を開いたら、どうだい、ご覧のとおり。ちっとも動きやしないんだ」

ふと横を見ると、畳の上に投げ出された百合の花が見えた。きちんと包まずに曝け出された茎から、涙のように水が滴る。

「僕がね、頬をつついても、花を持ってきたと言っても、からかってやっても、強請っても、懇願しても、泣いても、口付けても、起きないんだ」

起きないんだと言って、白い頬を爪の先で抉る。まだ肌には跡が残って、こいつが死化粧かと思った。

「馬鹿なんだ、この子は、ほんとうに」
「……ああ、ほんと、馬鹿だな」

彼女の掌には、花弁が一枚大事そうに握られていた。




命よりも大きなお願い事
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