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わかんない、と小さく言って佐助はシャーペンを投げた。可哀想に芯がぽきっと折れる。ノートが黒く汚れる。まだ白紙だった。佐助はまだ一問も解いていない。

「ちょっと、おい、ノート汚れたけど」
「だってわかんねえもーん」
「だからこそ勉強してんでしょうが」

ほら、ともう一度シャーペンを握らせる。佐助はノートに顎を乗せてぶーぶー言っている。俺様ってばちょう頭いんだから、なんて威張っていたくせに。一問も解けない。曰く数字を見るのも嫌らしい。嘘つき、と思ったら、一寸腹が立った。

「はいじゃあ、まずこれからね」
「わかりませーん」
「まじですか佐助さん」

ていうか、問題読んでないでしょ、とつっこむ。だってえ、と気だるそうな返事がきた。ノートは未だに白紙でいる。シャーペンは芯すら出されていない。消しゴムも新品のままでぴかぴかしている。ちなみに季節は夏だ。

「いいの、このままで」
「うん、俺様すごくよくないと思う」
「じゃあ勉強しとけよ」
「でもそしたら▽と一緒に居れないじゃん」
「口説いてる暇あったら問題を解かんかい」

ほら、と問題用紙を押し付ける。うえ、と妙な声をだして、佐助は紙を引き剥がす。

「……ねえ、この問題解けたらちゅーしていい」
「……解けたらね」

よっしゃ、と急に佐助のやる気スイッチが入る。漸くシャーペンが本業に戻る。ノートが歪な文字で埋めつくされていく。

「俺様さ、なんか、馬鹿でよかったかも」




うれしいこと
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