自分の忍に任務が下りた。殺して来いと、それで夜のうちから刀を研いでいる。静かに空気の切れる。もうすぐ五月になる。この間桜が散って、雨が降った。川の音だけ耳に残っている。 「明日だな、▽」 訊くと、ええまあそうですと忍が言った。白い顔が淡々としている。悔しい。柱に爪痕を付ける。 「▽、恐ろしくはならないか」 「なりゃ忍じゃありませんよ」 「しかし貴様は臆病だ」 「憶病でも、恐ろしくなっちゃいけないんです」 ええそうです、と忍が独りで納得する。悔しい。自分には忍の思うことが分からない。 「▽、今のうちに恐ろしくなれ」 「なぜです、任務にいけませんよ、それじゃ」 「行かないで構わん、私がどうにかする」 「どうもなりません、行きますからね」 「やめろ」 「やめません」 やめろ、ともう一度引き留める。刹那に雨が降った。しめやかに空気を湿らす。息が重い。白い腕を掴む。 「……そんなに心配ですか」 「当然だ」 「でも、平気です」 平気です、と忍が繰り返す。雨の中で、そんなことがあるものか、と小さく言った。忍は、そんなことがあります、と返してきた。 「私は平気なんです、忍ですから」 「……いくな、止せ」 「二日あれば戻りますから、ね」 子供に言い聞かせるように言う。外が段々白くなる。忍の腕も無論白い。唇だけ赤い。内心、悔しかった。 「……裏切るな」 「ええ」 「貴様は私の忍だ」 「そうです、ですから、死にやしません」 ね、と忍が念を押す。赤い唇に擦り寄ると、忍は嬉しそうだった。二日後に、きちんと忍は戻ってきた。 爪甲 |