クラスメイトが言っていた。教室に二人きりの時に、聞いた。人間は孤独な生き物らしい。美術の教科書の、絵画の載っているページを開いて、これが理解できるかと問われた。自分は黙っていた。クラスメイトは、美しい、と評価した。 「私はね、これを美しいと感じるよ」 「それは、俺も同感だ」 「そう、けどね、共有はできないよ」 同じ言の葉を吐けはせども、共有はできないと言う。クラスメイトは教科書を閉じた。自分は彼女の横に腰掛けた。 「それは、何故か」 「自分を理解できるものは自分だけ、自分の味方も自分だけだ」 「故に、他の人間とは共有なぞできぬと」 「そうだね、あんたは理解力があって助かる」 クラスメイトは嬉しそうだった。彼女はあまりに知的だ。クラス内でも随分と浮いている。 「私はね、真田、おまえみたいなのが好きだよ」 そう言われたときに、自分は嬉しかった。自分もだ、と心の中で、小さく、返答していた。クラスメイトは教科書を鞄に詰めた。 「…俺も、あなたのようなひとが好きだ」 「そう、おまえは本当に知的な男だね、真田」 「苗字呼びはあまりによそよそしい」 「なら、幸村」 「そのほうがいい、俺も▽と呼ぼう」 そう、と嬉しそうにしてクラスメイトは笑っていた。いつか、自分は彼女の論説を打ち砕きたい。 何百年か昔の絵画の端っこ |