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打たれたような音を聞いて、目が覚めた。自分の頬を触ってみる。痛くもなくて、なら、誰が打たれたんだと思った。吸い寄せられるように蝋燭の方を見る。紅葉よりも遥かに赤い。焼ける。布団を剥がすと、粗塩をすり込まれたように、傷が鳴いた。

「…御目醒めですか、謙信様」
「…そなたでしたか」

ぶたれたのかと訊くと、外で、男に殴られたと答えた。忍びの頬が異様に赤い。鮮血を塗りこんだように、燃える。自分が黙っていると、もう一度、そうですと答えた。

「そとで、ぶたれたのですか」
「はい、しかし忍びですから、痛くもありません」
「そなたはいたくないでしょう、しかし、わたくしのしんのぞうは、きしんでいますよ」

おいでなさいと忍びを呼ばう。自分に寄ってきた頬が燃えている。炎のように赤い。この、瓜実顔を呪ったのはどこの輩か。水を掛ければ、恐らく忍びの頬は音を鳴らすだろう。

「…謙信様、貴方様の御心は、未だ、軋みますか」
「ええ、そなたがいくさばにたつかぎり、わたくしのこころは、なりやむはずがないのですから」

美しき忍びを抱く。熟れた頬は未だ熱い。自分の凍てついた掌でさえ、冷ますことは叶わない。忍びの頬は、未だ、痛々しく燃える。

「…そなたはわたくしのしのび、ゆえに、わたくしはもどかしく、そして、いとおしい」




かくも痛々しく、美しく燃ゆる
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