text | ナノ





不意をつかれた。三遍目の戦で、はじめて、油断をした。気の付いたときには、既に横腹から生ぬるい血が溢れ出る。篭手をしていたから、においしか、わからなかった。

「三成」

じきに死ぬね、と女が言った。自分の好きな女。艷やかな宝石を睫毛に抱えて、自分を見ていた。自分が、死ぬのか、と訊くと、そうだよ、と息のするように女が言った。女の言うことはいつもひどく正しい。死ぬのだ、と言われて、急に、涙がでた。

「ほら、泣かなくても平気」

女が笑う。花の香りも知らぬのに、女の指先はそんな匂いがした。風のように頬を撫ぜる。私もね、と言うのに、理解するまで時間が掛かった。
女の唇は平素の二倍は赤い。漸く理解して、心臓が軋んだ刹那に、女が自分の横に眠った。死ぬのか、と訊くと、そうだよ、とまた言った。死ぬ。この女と、自分は、死ぬ。今ここで、二つの修羅が、おそらく眠る。

「――▽」

自分はどうも、極楽へはいけぬと思っていたから、最後に、花の香りが知れて善かったと感謝すると、それは、私も同じだね、と女が綺麗に笑って、三途も、これなら六文銭なしで渡してくれるだろうかと、小さく、思った。




いつか花の香りを知れ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -