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彼女の唇はいつでも乾いていた。冬になると、よく、皮が剥げて、そのたびに血が出た。彼女はよく、爪で唇を弄っているから、そのせいで夏も乾いていた。自分が舐めると痛いと言って顔を歪める。指を噛ませてやると黙っているから、そのまま食わせた。指に残った歯型は彼女の痛みだった。

「三成」

赤く切れた唇の隙間から息が漏れる。彼女は花のように静かな女だ。

「どうした」
「これ、友達からもらったの」

ころりと、彼女の手の上でリップが転がる。思わず、眉を寄せた。

「それを、誰にもらった」
「友達だよ、唇、乾いてるからって」

受け取ったのか。訊けば、半ば押し付けられたのだという。彼女は花のように優しい女だ。でも、いらない、と思った。

「…▽、それは使うな」
「なんで」
「なんででもだ、貴様には必要ない」

リップを彼女から奪う。思い切りポケットに突っ込んで黙っていると、彼女がやきもちか、と可笑しそうに問うてくるから、恥ずかしくなって暫く顔が見られなかった。




以心伝心
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