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戦が終わった。河には熱い鮮血が流れて、その上を涙が潤す。白い花には屈辱が刻まれている。猛った心臓をしめやかな雨が撫でる。うつくしきひとが、睫毛の隙間から自分を見て、笑っていた。



頬にこびりつく血を流して、割れた傷には薬を詰めた。主に呼ばれた。御顔をみせとくれと言われて、顔を上げた。うつくしくて、息を飲んだ。自分の主は肌が白い。

「三成、御前、よく働いたってね」
「有り難き幸せにございます」
「ほうら、御顔を御上げ、よく見えない」

喉の緩いところに指が伸びて、顔が上がる。主の眼は宝石を埋め込んだように瑞々しい。それが自分を見詰めている。それだけで緊張した。

「あ、▽様」
「傷がついてる、薬を詰めたか」
「はい、詰めました」
「乱暴だね、三成、折角きれいなのにね」
「いえ、それより、御手を」
「離さないよ、どれ、御見せ」

御見せ、と言って、うつくしき爪先が、頬を伝う。自分のすぐ横には睫毛が宝石を抱えていて、息ができない。

「▽様、私のようなものに、御手が」
「御前は自分を卑下しすぎる」
「しかし、血が」
「構わない、御前には崇高なる豊臣の血が流れている」

頭を垂れよ、と主らしい声が聞こえて、緩やかに首を折った。うつくしきひとが頭を撫ぜる。自分は生まれながらの従者だ。うつくしきひとは、生まれながらの主だ。睫毛の瞬く音がして、傷の塞がっているのに気がついた。




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