学校の帰りに、クラスメイトに会った。名前を呼んでも一向振り向かない。ので、遠慮もなしにぐいと肩を引くと、途端、ぱしりと乾いた音がして、はたき落とされた。じんじんと痺れる赤い手を見て呆然としていると、目の前のクラスメイトが、氷みたいに冷たくって泣きそうな瞳で睨んでいた。手が、熱い。 「ごめん、触んないで、男のひと、苦手なの」 きっ、と鋭く睨まれて、殺されるのかと一瞬思った。正直、どきりとした。泣きそうな顔してた、と、しばらく経って思って、次会ったとき、謝ろうと思った。 はたして次の日の帰りに、会ってしまった。名前を呼んだら振り返ったので、あ、打たれないのか、と小さく思った。瑞々しい瞳が真直ぐで、どきりと、した。心臓に悪い。 「貴様、男が苦手といったな」 「うん、言ったね」 「すまない、私は、知らなかったのだ」 「うん、わかってる、いいよ、気にしてない」 そうか、と訊くと、そうだと言った。唇は、無論瑞々しい。濡れたみたいに、赤い。紅を塗っているのか。どうなのか。気になる。触ってみたい。 「……貴様、紅を、塗っているのか」 「いや、なにも、化粧したことない」 「にしては、赤い」 「私の、唇が、赤く見えるの」 「赤い、血のようだ」 鮮血を塗りこんだように、赤い。触ってみたい。つい、手を伸ばした。はたとして、すぐに引き戻そうとする。が、彼女は、動かない。瞳は乾いたままで、まぶしい。 「いいのか、触っても」 「いいの、いいよ」 「だが、昨日、男が苦手だと」 「いいの、あんたは、いいよ」 いいよ、と自分の唇に触れられた。ぞくりとする。赤い果実に触れてみる。ああ、いつかこれを喰ってみたい。 錯覚はきっと錯覚ではない |