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闇はいつも深いところで眠っている。呼吸をしている。どうしようもない怒りとひもじさと苦しみと痛みと悲しみとが常にまなこの奥に閉ざされている。そうして黒い心臓を動かしている。静かに泣きたかった。

「ねえ」

昼飯を頬張る三成に言う。普段は食おうとしないから、今日は無理矢理に食わせた。自分が屋上で食うといったら、じゃあ、貴様が行くなら、と弁当箱を握り締めて、後についてきた。いつもならジュース一本なんかで済ましてしまう極度の少食だから、少し安心する。

「どうした」

口に含まれた飯の隙間から三成の声が聞こえる。卵焼きを食うのに必死らしい。ささくれた指先でフェンスを引っ張る。揺れた。

「三成はさ、強い人だよね」
「…なんだ、突然」
「私ね、強くなりたかったの、言ってるだけじゃなれないんだけど」
「……」
「いつか、ね、ひとりになるでしょ」
「……言いたいことは簡潔明朗に言え」
「うん、このフェンス乗り越えたら、死ねんのかなって」

三成が卵焼きを飲み下した。いつも細い目が見開かれる。裂けてしまう。途端、ぼろりと涙をこぼして、お弁当の包に箸を落としたのも気がつかないで抱き締められた。骨が軋む。ひどく優しい抱擁。光。

「…貴様は、死にたいのか」
「たまにね、思っちゃうの、少しだけ」
「やめろ、たとえ冗談でも許さない」
「うん、ごめん、いきなり変なこと言って、いままで黙ってて、ごめん」
「ちが、ちがう、責めたいわけでは、ない」
「……うん」
「私は、気付かなかった…すまないっ」

腕に刻まれた切り傷を撫ぜられる。今まで隠し通してきた。誤魔化してきた。今までこの傷は猫の引っかき傷だった。気づかぬ内に作ったただの痣に過ぎなかった。いま、ちょうど、自ら刻んだ傷になった。自ら噛み付いた痣になった。

「ごめんね、いま、薬のんでんだ」
「薬……」
「うん、それでね、少し、落ち着かせてんの」
「…私に、なにができる」
「なんも、しなくっていいから、お願いがあるの」
「なんだ、なんでも言え」
「あのね、三成にさ、そばにいて欲しいの」

制服の端をつかむ。いくらでも居てやる、と優しく耳の奥に吸い込まれた。




青の心臓はいつでも脈打っているのです
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