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課題に手こずったのだという。それで呼び出しをくらった。そとは寒かった。冷えた爪先を食う。三成が課題を溜め込むのは珍しいことじゃない。でも、いつもは真面目だから、みんな意外、と言う。そうでもない。豊臣先生と竹中先生の授業にしか興味がないだけだ。二人以外の授業はすっかり覚えていない。ので、国語と英語がてんで駄目だ。

「▽、これはどういう意味だ」
「これは、かわいいって意味」
「さっぱりわからん」
「うん、言うと思ったよ」

あーでこーでと言ううちに外が暗くなる。折角あったまったのにな、と思った。暗くって寒い中をひとりで行くのは億劫だ。ブーツの先が冷える。鼻も痛む。できればここに、いたい。

「そういえば、理科はどうなったの」
「初日にすっかり終わらせた」
「なんで理科だけ早いの」
「憎き家康の教科だからだ、くそっ」

悔しそうにシャーペンの先を砕く。三成は徳川先生が嫌いだ。気に食わんと言う。そのおかげで、理科だけは例外的に点数がいい。耳にも入れたくないという声を一時間聞き続けなければならないのだから、辛い。それで嫌でも覚える。先生には、実は内心感謝している。

「ほら、あと一枚半、そら」
「わからん、教えてくれ」
「うん、これがね」

言いながら三成を見る。睫毛、長い。色白い。いいな、と思う。

「いいな、三成、睫毛、長いし」
「私は男だぞ、▽」
「いいじゃんか、男でも長いに越したことない」
「貴様は私より長いだろうに」
「うそだ、三成のが長いよ、それに綺麗」

三成は黙ってシャーペンを動かした。褒められても嬉しくないらしい。卑下されても憤怒しない。興味のないのにはとことん興味がない。でも、いまは、顔が赤い。

「はずいの、三成」
「…先程のは私が言うはずだった」
「え、じゃあ、言ってみて」
「な、知った上で言うのか!」
「うん」
「無理だ!恥ずかしい!」
「えええー無理なんですか」

どうしたらそうなるか聞きたいほどに顔が赤い。ブーイングも飽きたので先の問題を解く。指先でプリントを叩くと、一度しか言わんと耳元で小さく聞こえた。

「…き、き、きれ、きれ」
「よし、いけ三成!おまえは聡い子!」
「き、ききき、きれ、きれ」
「できる!やれば出来る子!」
「き、きれ…くそ!言えん!」

最後の一枚半にシャーペンを叩きつける。余程悔しかったらしい。がちがちと三成の歯が鳴る。次までに練習しておくから待っていろと言われた。練習する気なのか、とは言わなかった。




千と万の言葉と、一の愛情と
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