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べたべたと絵の具を塗りつけていく。白かった紙にあっという間に色が付いて、油絵具のにおいがつんと鼻の奥をつんざく。美術室に置かれた油絵はじっとそこで黙っている。がんがんとただ筆を打ちつける音だけが耳の奥に響く。意識もせずにただ筆を打ちつけ続ける自分を、三成はだまって端の方で見ている。というより見とれている。呆然としたまま、ずっと何も話さない。さすがに気まずい。

「三成、ねえ、どうしたの」
「…いや、なんでもない」
「でも、さっきからぼーっとしてる」

試しに目の前で手を振ってみたら、きちんと意識はあると手首を掴まれた。三成は案外馬鹿力なので結構痛い。

「貴様の絵を、みていた」
「ふうん、楽しい?」
「ああ」

ずっとここに居たいと三成は続けた。豊臣先生と竹中先生の崇拝者である三成がほかのことに興味を示すのはなぜだか私の絵に限りだ。余程気に入ってくれているらしく、展示会の時には必ず見に来ている。過去の絵を整理しているときに一枚くれと申し出てきたくらいだ。

「そういえば、前に貰っていった絵はどうしたの」
「部屋に飾ってある、一番目に付くところだ」
「ええええ、まじで」
「まじだ、毎日欠かさずみている」

そんなに私の絵が気に入っているのか。訊けば、気に入っているのではなく愛しているのだという。たまに三成は無駄に恥ずかしい科白を言う。そのくせ顔はいつも真っ赤だ。

「愛してくれんの、私の絵」
「ああ、勿論貴様自身もだ」

拒否は認めない、とお決まりの科白とともに壁際まで追い詰められる。大胆な行動のわりに、三成の顔は茹で蛸みたいに真っ赤だった。




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