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春だ。自分は忍びを閉じ込めた。牢屋でなくって、薄暗い部屋の中にひとりにした。大して広くはない、自分の部屋に入れた。すると女が、一人では退屈するというから、一匹だけ斑の猫を飼ってやった。女はきゅうと口の端を上げて、たいそう喜んだ。なんだか嬉しいな、と思った。それから暇さえあれば、城下へ下りて、簪と紅とを買ってきては人形のように飾って見つめた。女は嫌がりもしないでむしろ笑っていた。そうして自分は続けていた。たまに、自分が紅やらを持ってくると、女中とか兵とかが不思議そうにちょっと首を傾げて、ああ、と思ったのか、すぐに目を逸らした。面白いや、と思って、なんも言わずに部屋に入った。自分が入ると、女も嬉しそうにするから、また小指で紅を塗ってやった。唇のなぞるのがいい。元から血色のいい唇が、鮮血を飛ばしたように赤くなるのが好きだった。自分に縋る女が好きだった。縋らせてくれる女が好きだった。泣きついてもただあやしてくれる女が好きだった。好きだった。ほんとうに、自分は、女が、忍びが、好きだった。



そうしてある日、飯を持って部屋に入ると、しんと静まったまま女は猫を抱いていた。起きろ、と言って、肩を柔らかく押しても動かない。仕方のないことだと、もう少し強く押した。動かなかった。すると猫が女の腕から抜けて、そうして、にゃあと少し鳴いて、城から出ていった。しまった、と思った。猫を逃がした。女の好きだった猫を、逃がした。

「おい、おい▽、猫が逃げた」

逃げたぞ、と肩を押して、そうして、女の顔を自分に向けると、ぽろっと、目の端から粒を零した。あ、と、思った途端に、女が息のしていないのに気がついた。ぐいと肩を押す。起きろ、と言う。起きろ。猫が逃げたのだと教える。それでも起きない。怖くなった。

「▽、すまなかった、謝る、次は違うのを飼ってやるから、起きろ」

起きろ、と言う。女の瓜実顔を指でなぞって、これでも起きないかと思った。そうして、女は起きなかった。それでもまだ信じられなくって、次の日違う猫を抱いて部屋に入ったが、結局、女は二度と笑わなかった。すると猫が、腕の中からにゃあと鳴いて、するりと自分に寄ってきた。ああ、貴様かと思って、自分も抱き締め返した。




死んだ女を愛する妄想
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