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三成は主である秀吉様に刀すものには一向容赦しない人間だった。たとえその人間に大切な家族があろうと土地があろうと野望があろうと躊躇なく打ちのめす。壮絶な痛みに悶える敵兵の姿を見ようと眉ひとつ動かさなかった。戦場の土が見えなくなるくらいに積み上げられた死に体の光景にも、鼻の奥をつんざくような吐き気を催すような臭いを嗅いでも、彼に迷いなどはないのだ。ただ秀吉様の傍にあることのみを目的として淡々と人を殺してきた。そこに微塵も迷いなどあるはずはなかったのだ。

「なのにどうして、三成は悲しむの」

秀吉様が死んだ。泥雨降りしきる居心地の悪い日。明らかに行ってはならない戦だったのに。嫌な予感がしていた。果たして秀吉様は死んだ。三河の徳川に討たれたという。自分はその瞬間を見たわけでもないから、ああそうかお亡くなりになったのかと、人間ならば誰にでも起こりうる現象としてただ意識の奥に認めていた。それでもやっぱり生涯を尽くして仕えると確かに心に決めたお方であるから、私はあの日泣いたのだ。私だって悲しかったのだ。それでも私は、秀吉様をあくまで人間として認めていたから、徳川に仇討ちしようとは思い立たなかった。だがしかしそれが原因で、三成に血が出るまで頬を打たれたのである。いまは丁度疲れきった三成に襟元を掴まれて床に押さえ付けられているところだ。ぜえぜえと荒い息の端々から苦痛にも似た疑問の声が降りかかる。

「なぜだ▽!なぜ家康を許せる!」
「違う、許したわけじゃない、確かに憎い」
「ならば殺せ!私と共に秀吉様への許しを請え!」
「それはしない、絶対に、徳川は殺さない」

一段声を張り上げて彼の耳へと注ぎ込めば、絶望した瞳で自分を見つめながらなぜだ、なぜだと理解に苦しんでいた。あああ、と眩み始めた視界へ手を遣って私の上から静かに退いていく三成に、彼の白い手首を掴んで言う。

「三成、秀吉様も人間だ、神でも仏でもない、あの方も老いる、そしていつか死ぬ」
「違う、違う違う!貴様はなぜ理解しない!秀吉様は人である己を否定なさっていたのだ!私を理解しろ、▽!」

震える指先で首元を締め付けられる。理解しろ、と苦しそうに呟きながらも確かに彼の両手は自分を殺そうと力が込められている。ああ。

「――やさしい子なのね」




理解と矛盾とやさしい子
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