あかぎれた指先を宙に浮かせて、あれはまだ来ないのか、来ないのかとうわ言のように言い続ける。濁った目をして宙をさ迷って、あれきり刑部はまともに飯を食っていない。食え、と差し出しても、舌が震えて食えないのだと言って、食おうとしない。おかげで肋が飛び出て、肌は枯れてしまった。羽のもげた蝶が問う。 「▽よ、まだあれは降らぬのか」 「いんや、もう降ったんじゃないかな」 「そんな筈はなかろ、そんなハズは」 「いんや、もうとっくに降り落ちたよ」 それでもまだ降っておらぬ、降っておらぬぞとあかぎれた指で探す。染みった血水がこぼれ落ちて、目蓋が閉じかけて、そうして、またあいた。 「われは、あれが落ちやるまで」 死ねない、と掠れた声が言う。羽はもうとっくにもげているのに、枯れているのに、この蝶はほんとうに、気がつかなかった。 「――可哀想に」 あかぎれと唾液 |