孤独というのは、なんとも言葉では表現できないものだと思う。
彼はずっと一人で生きてきたのだと言った。誰から愛されることもなく、誰のことを愛することもせず、ずっと一人だったと。
なので何も感じないんです、と、光のない真っ黒な瞳でそう言った。
一人になろうが何を言われようが嫌われようが、何も感じない。
だから彼には推理しかなかったんだ。
探偵という仕事が、彼の生きる意味であり唯一自分が求められる場所なんだと思った。
「寂しいと、思ったことは一度もないんですか…」
「はい、一人には慣れていますから」
視線はパソコンに向けたまま。
いつものその無表情が、いつものその生気を感じない声が、今日はやけに悲しく感じる。
孤独だということに気付いていない。…いや、孤独だという感情すら無くしてしまったのかもしれない。
ねぇ竜崎、
今あなたは何を思ってる?
「あの、」
「はい」
「私は竜崎の真相も考え方も気持ちも分かりません。何を思ってるのか、色んなことをどう感じるのか、今までどういう風に生きてきたのか、何も分からないです」
「………」
「だから…」
それでも、何となく感じるの。
死ぬことへの恐怖とか、捜査への不安とか。
ふとした瞬間に見せる悲しそうな表情も、ひそかに震えていた手も、本当は行き場所を探してるんじゃないかって。
でも本人はそれを分かっていなくて、どうしていいのかすら答えも見つからなくて、そのままずっと大人になってしまったんじゃないか、と。
「私は、竜崎にしたいと思ったことをしていこうと思います」
「……はぁ」
理解出来ないといったように首を傾げた竜崎にゆっくり近づくと、その大きな丸い瞳が私をじっと見上げた。
その不思議そうに見る目に向かって優しく微笑んで、そっと、だけどこれ以上ないくらいの愛しい気持ちを込めて竜崎を抱きしめる。
びっくりしたのか強張った竜崎の身体を抱きしめたまま頭を撫でると、ゆっくりと力が抜けていくのを感じた。
竜崎はきっと、甘えることも知らない。
甘えられる場所すらなかったんだ。
だから、私がその場所になりたいと、そう思った。
「………名前、さん…」
「はい」
「…………」
「私がこうしたかっただけです。嫌ですか?」
「、…いえ…」
大人しく抱きしめられている竜崎が、愛しくて仕方がない。
あぁもういっそこのまま
私のものになってしまえばいいのに。
私なりの愛情の伝え方
(そっと私の背中に恐る恐る回された手が)(わずかに震えていたのを感じた)
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