※web用に一部改行を増やしています

 最近、よく見る夢がある。別に睡眠の妨げになるようなおどろおどろしい悪夢ではない。そこには人外の化物は登場しないし、胸が張り裂けるような悲しい出来事が起きるわけでもない。
 目に映る景色はいたって単純だ。くすんだ色をした教室、あるいは廊下。曖昧な色をした踊り場へと歩いてゆき、階段の色を認識する前に行き止まりに到達する。さらにその先へ進もうと静雄の前に立ちふさがるなんの変哲もないドアを開くと―――そこでようやく景色が変わる。

 一面に広がるのは鮮やかな青。

 今まで通り過ぎてきた景色の色はすでに記憶も定かではない。だけど、目が覚めてもこの青だけは覚えている。晴れ渡る晴天をしばらく呆然と見て、静雄はようやく自分が今屋上にいるということを認識する。それも、あの忌々しい青春時代を過ごした、因縁深い自分の母校がその舞台なのだ。それを認識すると、一気に背筋が冷たくなる。
ここはよくない場所だ。すぐに立ち去らなければ。
 そう思うけれど、足は一向に動いてくれない。体は静止したまま、ずっと誰かを待っているのだ。その誰かが来る前に屋上から出ていかなければならない。頭はそう警報を鳴らしていても、体はその気持ちを裏切る。そうこうしているうちに屋上のドアが開いてしまう。
 ギイと重たい音を立てて開く扉は、夢を重ねるごとに、徐々に開きが大きくなる。
 先日、ついにその扉が開いてしまった。
 扉を開けた人物は予想通りの人間で、青空の下で静雄をからかうように微笑んだ。

「ここに居たんだね」

 邪気のないその声を聞いた瞬間、まるでその幻影から逃げるかのように目が覚めた。
乱れる呼吸を必死に整えている最中も、どうしてもあの青空が頭から離れなかった。
かすかな雲もない一面の青。夢だから綺麗に見えるのではない。あの空は思い出だから、あれほどうつくしい様相で静雄を苛むのだ。
これと同じ雲ひとつない青空の下で、昔、静雄は崩壊を目の当たりにした。天敵という絶対的な関係が崩れ去る音をこの耳にしたのである。
 だから、その時静雄は臨也に殺されていいとすら思ったのだ。複雑な想いを抱くようなことになる前に、いっそ殺してくれと思った。天敵のままで、この命を奪ってくれと切望した。
 だが、結局静雄のその願いは聞き届けられず、ふたりはどちらともまだ生きている。
相手を殺さなければと思う反面殺せないというジレンマを嘲笑うかのように、夢の中の少し幼い臨也はくすくすと笑った。

「そう、まだ喧嘩したりないの。仕方ないから付き合ってあげるよ」

 あの時の臨也は余裕綽々と笑っているくせに、瞳の奥ではひどく苛立っているように見えた。






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