!現代パラレル。オズは良いところのお坊ちゃんでギルがその世話係。避暑に海の近くに来ました。


青と青が重なって紺碧を織りなす。潮の香りも冷たい海風も生まれてはじめて経験するものであった。
オズは幼い頃からあまり外出を許されなかったし、こんな静謐な場所とは程遠い場所にずっと住んでいた。だからこうやってテトラポットの上でひとり海を眺めることができるのも、ひとえにオズのわがままを聞いてくれた叔父のおかげと言っても過言ではない。

「オズ」

心地よい波の音の隙間に聞き慣れた声が入り込んできた。オズはそれを厭うことなく、薄く微笑んで声のした方向を見る。
そこには自分の世話係であるギルバートがいた。手にしている毛糸のカーディガンはオズを思いやっている証拠だろう。それをくすぐったく思いながら、オズはギルバートからカーディガンを受け取った。

「綺麗だな」
「……ああ」

オズは碧色の目を広大な海に向けた。遠くまで遠くまで果てしなく広がる海に、なにも感じないと言ったら嘘になる。あの先に行きたい、自分がまだ知らぬ遥か遠くへと。

「オズ!」

ギルバートはオズの腕を掴む。どうやら自分はテトラポットから落下するところだったようだ。ふらりと傾く体は、ギルバートにしっかりと支えられている。
思えば、オズがなにもかもを捨て去って逃げない理由のひとつに彼の大きな手の存在があった。彼の手とオズを慕う彼自身に、オズはどれほど助けられてきただろう?
寄せては返す波のように掴み所がなく、目の前に広がる海のように計り知れない権力の世界。そんな混沌として世界に溺れそうになった時、この手を握れば少しだけ呼吸ができた。

「お前は、知らないんだろうなぁ……」
「え?」
「何でもないよ」

不思議そうな顔をするギルバートに、オズは「強いて言うなら、」と言葉を始めて海を見た。

「海の彼方に、海の底に、海の先に、行けたらいいなと思っていたんだ」
「ここを気に入ったんだな」
「そうだね。そして、海に魅入られたのかもしれない」

けれど、海に入るのは最後にしよう。全てが終わるまで、できる限りのことをし尽くすまで。
オズにはまだまだ海よりも陸の方が魅力的に見える。ギルバートも叔父も妹も、自分の大切なひとたちは陸の上で笑っているのだから。
だが、どうしても辛くなったらまた海を見に行こう。テトラポットの上で海を見ていると、自由と終わりを色濃く想像することができる。あの深い青に足を踏み入れた時の冷たさは、想像するだけで背筋がひんやりとした。
その時、ギルバートはオズについてきてくれるだろうか? 自分をこの上なく慕い、自分に依存している彼。そんな彼をひとり置いていくのは、主人として失格な気がする。

「ギルは、どこまでも俺についてくるの?」

今日、オズのお供として海についてきたように、彼は一緒に塩水の中に足を踏み入れてくれるのだろうか?
そんなオズの疑問を無とするように、ギルバートは「なにを馬鹿なことを」と言って、呆れたように笑った。

「海の中でもどこへども、主人の行く先にご一緒しましょう」

ああ、依存しているのは自分の方だ。そして、自分のせいでギルバートが死ぬという罪の重さに耐えられるほど、オズは強くなかった。
オズは海に背を向け、テトラポットから立ち上がった。

ギルバートが俺から離れてくれない限り、俺はきっと入水できないのだろう。





テトラポットの上で








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -