じりじりと照りつける太陽が肌を焼く。今年の夏は、きっと去年と変わらず灼熱のような暑さを記録するのだろう。湿度が高いこの国の暑さにはひどく辟易する。こんな状況で、自分と天敵はさっきまで殺し合いの追いかけっこをしていたのだ。あまりの暑さに停戦状態になった今、少し冷静に思考を働かせると、周囲を全く気にせず、まるで子供のように追いかけっこをしていた自分たちにある意味感嘆を覚えた。
だってこんなに暑いのだ。今からまた臨也を追いかけろと言われても、全く食指が動かない。静雄の頭がすっかり冷え切るくらい、今日はじっとりとうだるように暑い。
ただでさえ暑いというのに、目の前の男を見るとより暑苦しさが増した。黒の上下の服は相変わらず彼の肌を見せない。わざわざ熱を吸収しやすい色なんか着こんで、この男はやはりどこかおかしいのだろうか?

「ねえ、君は今、ひどく失礼なことを考えているでしょ?」

ひとの心中を読むな、そういうところもうざい。静雄が盛大に顔をしかめると、臨也は「君はわかりやすいんだよ。顔に感情がはっきりと記されているからね」なんて嘯いた。
確かに自分は苛立ちが顔に出るタイプだと思う。けれど、これほど今の静雄の気持ちを的確に当ててくるひとは他にはいない。皮肉な話だけれど、多分自分のことを一番理解しているのはこの天敵なのだろう。

「しっかしよぉ、お前のその格好どうにかなんねえのかよ。見ているだけで不愉快と暑さを与えるだなんて、本当に迷惑なやつだな」
「ひどいなぁ。君だって暑そうな格好をしているじゃないか」
「コートまで着てるお前に比べたらまだマシだ。そんな格好で暑くねえのかよ?」
「暑いに決まっているだろ」

じゃあなんでわざわざそんな格好をしているのだ。静雄は眉間にしわを寄せ、額に浮かぶ汗をぬぐった。

「ああ、俺は一生てめえの考えていることを理解できそうにない。どういう基準で、なにがしたくて行動してるのか全然わかんねえ」
「そうかな? 結構単純だよ」

臨也は涼しい顔をして言う。「俺はやりたいことをやっているだけ。俺と他人とで違うのは、そこにある執念の強さだろうね」
好きなことを好きなようにするための執念をずっと持ち続けること。それはきっと、静雄の想像以上に難しいことなのだろう。臨也のしつこさを静雄は身にもって知っている。静雄にほとんど刺さらないナイフを向けてくる臨也に、本気で相対するのもそのせいだ。確実な根拠はないけれど、いつか臨也は静雄を殺すのに成功するかもしれない。
その時、自分は、彼はなにを思うのだろうか?

「たとえば、本来天敵であるはずの君とこうして仲良く停戦状態にいるのを許容したのは、こうしているのも悪くないと思ったから」

臨也は一歩一歩、静雄の方へと歩み寄る。それにつられて静雄も後退りした。

「君のことがわかるのは、俺が君のことを理解したいと思ったからだよ。誰よりも、それこそ俺よりも君と付き合いが長いやつよりも、俺は君のことを知りたかった」

トン、と背中に固いものが当たる。後ろは壁、どうやらもう逃げ道はないらしい。
静雄はすぐ目先まで迫ってきた臨也を見る。彼はお得意のナイフも持たず、ただただその瞳を爛々と光らせて静雄を見つめる。

「他にもあるよ。俺が君にちょっかいを出すのは君のその目を俺に向けさせたいから。俺が君の体を切りつけるのは、君に感情が濃厚な声で俺の名前を呼ばせたいから」
「……じゃあ、お前が真夏にそんな格好をしているのは、」
「決まっているじゃないか」

臨也は両手を静雄の首にかけ、やんわりとその手に力を入れた。

「君が死んだら、一番に送ってやりたいからさ」






君を送るための装い



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