!某サイトさんのチャットにて即席で書いた来神臨也誕生日話 !短時間クオリティかつ短いです。 目覚めた時、思わず枕元にあった携帯を投げつけたくなる衝動にかられた。ぴかぴか光る携帯が知らせているのは着信かメールか。どちらにせよ、それは取り巻きの女子たちからのものだろう。普段は愛すべき人間に思える彼女たちも、今日は目障りな存在でしかない。だって、彼女たちのことを思い出せば、最近何度も味わった落胆をまた思い出してしまうから。 ――五月四日、すなわちGWの真っ只中。 これほど自分の誕生日を忌々しく思ったのは初めてかもしれない。臨也は結局、携帯をベッドの上に思いっきり投げつけた。 初めて執着するくらい好きになった恋人は、少し前まで天敵だった。 だから、付き合い始めても甘ったるい雰囲気はあまりなかった。というか、相手は臨也が初めての恋人らしく、柄にもなく緊張しているらしい。臨也はそれをからかいつつも、実は自分だってらしくなかった。 たとえば、月並みな屋上での邂逅に胸を踊らせてみたり、放課後に一緒に映画なんか観に行ったり。帰りはどこかお洒落な喫茶店に寄って、緊張でがちがちになる静雄をからかってやるのだ。途中でなにかお揃いのものを買ってみたり、帰り際にさようならのキスをしたり、そんなまるで中学生が胸に抱くデートをけれども臨也はしてみたかった。 だから、誘ってみた。「俺の誕生日に、帰りに寄り道しない?」と。 すると静雄はきょとんとし、至極まっとうなことを口に出した。 「帰りって、お前の誕生日は学校休みだろ?」 携帯のバイブが鳴る。臨也はもう舌打ちする気力もなくて、ベッドの上に投げ出された携帯を机の中にしまう。そして、その引き出しに鍵を閉めた。 残念ながら、取り巻きの女子たちの臨也を祝ってあげたいという好意はありがた迷惑でしかない。だって、彼女たちのことを思考にかすめれば、必然的に学校を思い出す。そして、叶わなかった臨也の願いも。 臨也は窓から外を見渡す。街を行き交うひとを観察しても、ちっとも楽しくなんかない。それどころかどこか虚しい。金髪を見る度に反応する体を思えば、今自分がなにを求めているのかありありとわかった。 沈んだ気持ちで窓ガラスを軽く引っ掻いていると、引き出しがガタガタと動く。またか。もう、俺のことは放っておいてくれ。臨也がいっそ携帯を壊してしまおうかとぼんやり思案してた時、チャイムが一回鳴った。 (まさか家まで押し掛けてきたの?) だとしたら、随分と熱狂的な信者だ。ご褒美にナイフでひと突きにしてやろう。臨也はイライラしながら扉を開けると―――急に息苦しくなった。 「手前ェ、何回電話かければ出るんだよ! 出たくねえなら着信拒否にしとけっ」 「し、ずちゃん……?」 「しかもなんだぁ? その腑抜けた顔。顔でも洗って目ぇ覚ましてこい」 臨也が素直に頷くと、静雄は臨也の襟元から手を離す。一気に呼吸は楽になるが、頭の中はまだごちゃごちゃだった。 そんな臨也に気づいたのか、静雄は少し困ったような顔をして笑った。 「ほら、行くんだろ? デート」 「え……?」 「せっかくの誕生日だし、仕方ねえからつきあってやるよ。別に……放課後じゃなくたっていいだろ?」 首を傾げながらそう尋ねてくる静雄に、臨也は慌てて「着替えてくる」と言って、まずは洗面所へと駆け込んだ。 途中、「誕生日おめでとう」と恥ずかしがりながら言うかすれ声が聞こえたから、臨也は嬉しそうに微笑みながら「また後でもう一度言ってね」と玄関先の恋人にかわいいおねだりをしてみた。 闇色から薔薇色へ |