なんでこんなことになった。さっきからそればかり考えている。 いや、原因はわかっているのだけれど、それでもわからない。 幽の命を狙う輩を突き止めるために、俺は情報屋である臨也から情報を買った。 解決してから後払いでいいよーと笑った彼に感謝をし、犯人を警察につきだして、その帰りに銀行に寄って、そして重たい財布と共に新宿の彼の住まいに来たのだが、 「え、お金? シズちゃんからもらえるわけないじゃない」 当然のようにそう言った臨也に、俺はかなり戸惑った。 そんなこと言ったって、お前は後払いとか言ってたし、なにもしないというわけには……。 すると、臨也はその言葉ににっこりと笑んだ。 「じゃあさ、これ着てよ」 渡された巫女服。 これを見た瞬間、あまりのことに怒りもわいてこなかった俺は、痛む頭をどうにかやりすごした。 相手には借りがある。これで済むなんて、かなりラッキーじゃないか。正直言うと、大金を払った方がはるかにマシなのだが。 男としてのプライドを投げ捨て、俺はこの変態もとい俺の恋人である折原臨也の悪趣味に、仕方なく付き合うことになった。 そしてかれこれ一時間、臨也は巫女服を着た俺を凝視していた。 なめるようなその視線に、顔が赤くなるのが自分でもよくわかる。 なんだこれ。どうしてこんなことになった? 見られるだけなのが、ここまで恥ずかしいとは思わなかった。 「い、臨也?」 「…………なにこれ」 「え、だ、だめだったか?」 自分で言っときながらなんだが、だめに決まっている。第一、こんなでかい男が巫女服を着ているだけで、もうだめだめだ。むしろ、艶やかな黒髪を持つ臨也の方が似合うだろう。まあ、見たいとは思わないけれど。 とにかく、だめなら早くだめと言ってほしい。羞恥で頭がどうにかなりそうだ。「やっぱ似合わない」の一言で俺はこの格好から解放されるのだ。これ以上この格好でいるのなら、逆に全てを脱がされた方がマシのような気がした。 とりあえず、なにかアクションを起こしてくれよ臨也! 「…………かわいい」 「え?」 「なにこれなにこれ! シズちゃんかわいいなあ、おいっ! ねえねえ、手とか握っていい?」 「あ、ああ」 きゃいきゃいはしゃぐ臨也は、するりと手を絡めるように繋いできた。 とくりと鳴る鼓動と、更に熱が集まる顔。 こんなの、いつもの俺らしくない。けれど、躊躇うように触れてくる手にとくんと鼓動が鳴るのを抑えられない。 顔を真っ赤にした俺を見て、臨也は少し困ったように笑う。 「ほんとはね、巫女なシズちゃんと、いけないことをしようと思ったんだ。けど、あまりにも綺麗で神聖な巫女さんになっちゃったから、少し緊張するね」 「なっ……!」 おい! なんで臨也にどきどきしてんだよ、俺! 照れたように笑う顔とか、やけに優しい手がたまらなく愛しいなんて、一体なんの冗談だ? 熱っぽい臨也の瞳。そんな目を俺に向けるくせに、手を出す気を無いなんて嘘だろう? この現状に不満を持つのは、きっと俺がこの禁欲的な空気に酔っているからだ。 神聖な空気の中でいけないことをする。その禁忌を焦がれているのだ。 とりあえず、俺は妙に奥手な臨也の膝に乗り、巫女服の首の辺りを緩める。臨也の鼓動が高らかに鳴る。ざまあみろ。 動揺する臨也に、俺は妖しく笑ってみた。 「俺といけないことをしませんか?」 きょとんとした臨也は、幸せそうに微笑みながら言う。 「素敵なお誘いをありがとう。でも、顔が真っ赤ですよ、巫女さん?」 うるさい。こっちは慣れないことをしてるんだ。 「それぐらい、見逃せよばか」 「あれぇ? お口が悪いね、巫女さん」 臨也の冷たい手のひらが俺の首筋に触れる。それだけでもう、どうにかなってしまいそうだ。 「お仕置きが必要かな?」 こいつは本当に馬鹿だな、と思う。今からすることの、どこが一体お仕置きなのだ? 禁忌のあそび 次はこれを着てね! と微笑んだ臨也に渡されたメイド服を見て、俺は深くため息を吐く。 スカートが足首あたりまである、紺色の質素で清楚なつくりの正統なメイド服。 「…………お前、意外と安っぽいコスプレ嫌いだよな」 「君が着るなら嫌いじゃないけど、こういう方が好みなんだよ。なんていうのかな、清純なシズちゃんといけないことをしたいの」 臨也は俺の乱れた巫女服を正し、優しく優しく抱き締めてきた。 その仕草に胸が暖かくなる。仕方ないから、恋人の問題発言は聞き流してやろう。臨也の肩に顔を埋めながら、そう俺は思った。 |