past | ナノ
がりがり。書いては消す作業を繰り返して消しゴムのあとが残るのが嫌になって紙を捨てる。構想は出来たはずなのにそれを文章に表そうとすると難しくて、パソコンで行き詰まったら紙に書くのはわたしの癖のようなものだ。小説家、なんて大した名だが自分の好きなことを仕事に出来ることはありがたいことだと思う。それで食べていけるのかと問われれば別の話だが。パソコン画面を見るのも目が痛くなってきて、んーっと伸びをする。

「またそうやって締め切りまでがんばってる」

声をかけられて振り向くと一也がいた。気づかなかったびっくりした、と言うとほらこれ、とコーヒーが入ったマグカップを渡される。ブラックコーヒーが飲めないわたしにちゃんといつもの量のミルクとお砂糖が入っていて嬉しくなる。寝てたと思ってた彼がこんな時間に起きていて大丈夫なのかなとも思うけど大学生だからいいかな、なんて思ったり。大学生のうちが一番楽しいものだとわたしは思うから彼にはこんなわたしなんかに付き合ってないで楽しいことして欲しいのだけど。合コンとかも行ったらいいし、友達がいるかどうかは抜きにして友達とお泊りだってしたらいいと思うし何より頑張ってる野球にもっと没頭してもいいとおもう。

そもそも一也との出会いはわたしが大学生のときで一也が高校生のときだった。あのときはもっと真面目に野球野球って感じでかっこよかったのになあ。いや、今野球を真剣にやっていないというわけでもないのだけど。大学生だからゆとりが出来たっていうのも大きいのだと思う。なにより高校生当時は寮生活の彼だったから、そう見えてしまうのだろう。

「今俺のこと考えてた?」
「うるさい」
「はっは、図星かよ」

コーヒーを啜るといつもの味にほっとする。

「行き詰まってんの?」
「書きたいことは頭の中にあるんだけどそれをうまく言葉に表せられなくて」
「ふーん」

コーヒーを飲む姿すら様になっていて少しむかつく。わたしの中の一也はどこか少し子供でいてほしいという思いが少なからずある。それは自分が彼より年上だからかも知れないけどわたしは別にそれを気にしているわけではない。むしろ彼がそれを気にして大人みたいな余裕を見せているほうが私にとってすごくおもしろくて可愛くて愛しくてたまらないのだ。

「まあわかんないけど書けるときに書くのがいいんじゃねえの」
「うーん、そうなんだけどね」
「それじゃあ気晴らしにデートでも行きますか」
「こんな時間に?」

時計を見ると丑三つ時とまではいかないが既に深夜と呼ばれる時間を指している。一也はにやりと笑って俺が運転するからと車のキーをジャランと鳴らせてみせた。ふと、その少年がいたずらをしたような笑顔にキュンと胸が高鳴って堪らなくなる。パソコンも原稿用紙もそのままにしてわたしと彼は部屋を出た。そんな夜のドライブデート、きっと良いお話がかける気がする。





Women Meets Boy 様に提出
20140505
「#オメガバース」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -