past | ナノ
ふわふわと綺麗に咲いていた桜の花ももう散ってしまって夜空には綺麗に星が光っているそんな夜。閉店間際の大江戸スーパーに寄って買い物をするのがここ最近の日課になっていた。今日は彼の誕生日だなとかそんなことは頭の片隅にはあったけどどうせあの人は仕事人間だから会えないんだろうとか考えて、今晩の夕飯を何にしようか悩むことに集中した。オムライスが食べたくなって鳥肉と卵、それに野菜を籠の中にいれてお会計に進む。買い物を終えて綺麗な夜空を見上げながら自宅へと向かっていると後ろから聞き慣れた声。
「なにしてんだよ、こんなとこで」
「まだ夜の22時前ですよ、鬼の副長さん」
「うるせェ」
そう言ってわたしの左手に持っていた買い物袋を左手で持ち、彼の右手と手を繋ぐ。こんな時間に仕事が終わって会いに来てくれたことなど今まで会ったっけ、なんて思い出してみるけど夜中にいきなり家に来ることしか思い浮かばなかった。鼻歌を口ずさみながら歩いていると今日はご機嫌なんだな、と低い声。あなたがいるからでしょうなんて甘い言葉は恥ずかしくて言葉に出来なかった。
家の鍵をがちゃがちゃと開けて彼が真っ先に向かうのはベランダ。わたしの家に来るときはいつもベランダでタバコを吸ってから部屋でくつろぐのだった。
ソファでうたた寝をしている彼を揺り起こしてご飯出来ましたよ、と告げると両手を上にあげて伸びをする、そんなところも可愛いなあと思えるのだから案外わたしは彼に毒されているのかもしれない。そのまま立ち上がるのかなと思いきや腕が引っ張られて彼の腕の中にダイブする。
「なんか今日の土方さんは少しおかしいですね」
「あ?」
「仕事で誕生日も一緒に過ごせないのかなって思ってたけど日を跨ぐ前に会いに来てくれたりだとか、手をつないでくれたりとかいろいろ」
「悪ィかよ」
「いや、むしろ好きだなあって」
「ばかやろう」
抱きしめる腕が離さないとでも言わんばかりにきつくなる。あまり言葉で表してくれない人だから行動のひとつひとつが愛おしくてたまらない。顔をあげると土方さんは子供のように少し顔が赤くなっていて嬉しくなる。それを笑うなってデコピンをされたのは本気で痛かったけど今日くらいは許そうとおもう。だけどやっぱりタバコの味がするキスは苦手だ。
Happy Birthday / 20140505