past | ナノ
気づけば好きになっていた。文体ではぶっきらぼうな返事だけど話すと実は優しいところがあったりそういうところもひっくるめて好きだなあなんて思った。思えば簡単で感化されるのも簡単。
「枡くんのことが好きです」
初めての告白はその一言を言うのに5分くらいかかってしまった。枡の驚いたような呆れたような表情に笑ってしまった。何笑ってんだよって普段通りに言おうとして声が裏返った枡を見てまた笑うと頭を叩かれる。そんな普通にされてもなあ、なんて思いながらもどこかで嬉しがってる自分もいた。
「別にみょうじが嫌いなわけじゃねえし、いい子だってこともわかってる。でも今は野球を頑張りたい。ごめん」
「まだしばらく枡のことが好きだと思うし、絡んだりもするけどそれでもいい?」
考えて選んで絞り出した言葉は少し泣いてしまいそうな声だった。当たり前だろと言って頭をポンと触る枡にまた胸がきゅんとした。最後にありがとうと言って練習に向かう枡の姿はかっこよかった。
それがもう三ヶ月前のこと。
やっぱりわたしと枡は新学年になっても同じクラスで、相変わらず枡のことが好きだった。このまえ夏の大会が惜しくも甲子園に届かずにして終わった枡は敗戦数日後からみんなと同じく夏休み補習に来ていた。補習が終わってそのまま友達とマックに行く人や塾に行く人など様々な中、わたしは居残って自習をしていた。キリのいいところで荷物を片付ける。
「よ、」
「うわあっ」
いきなり肩を叩かれてびっくりする。振り向くと枡の姿があった。枡が爆笑している。恥ずかしいから笑うなというと悪りぃといいながらまだ笑っているものだから無視して歩き出す。枡が爆笑しているのなんて珍しくて久しぶりに見たから少し嬉しい。
「駅まで?」
「うん」
「送ってく」
帰り道は受験生っぽい話をした。どこの大学に行きたいのかとか周りが噂をして聞いたことはあるけど本人の口からは聞いたことがなかったから初めて希望学部とかを聞いて枡はすごいなあと思った。わたしなんて全然何になりたいとか決まってなくて就職に困らないであろう経済学とかにしようと思ってる自分が馬鹿らしくなる。
「送ってくれてありがとう」
「みょうじ」
「なに?」
「えっとな」
「わたし電車の時間あるんだけど」
「みょうじと一緒にいたい」
は?ねえそれどういうこと。わたし期待しちゃってもいいの。頭が混乱してどうすればいいのかわからない。聞いてるか?という枡の声でハッとなった。枡が笑う。
「ちょっとわかんない」
「は?分かれよ察しろ」
「もっとわかりやすく言ってくれないとわかんないよ」
枡は「はあ、」と大きなため息をついてゆっくりと深呼吸をした。
「みょうじが好き」
心臓がばくばくと五月蝿く鳴る。だってわたし枡に振られたのに。枡に振られてからもずっと諦めきれなくて、いつも通り振る舞って過ごしてきて。心の何処かでいつも枡が好きで。枡がわたしのこと好きって。嬉しくて頬が緩んでしまう。
「わたしも、枡が好き」
「知ってる」
そう言ったときの表情はすごく満足気で、うまくリードをして勝ったあとのような表情をしていた。プルプルと電車が来る音が聞こえて「またね」と言って行きかけたとき「明日から一緒に帰ろうな」と声が聞こえたから手を振って駅のホームに向かう。これからの帰り道、なにを話そうかなんて考えてしまったり、枡とわたしが恋人なんだと改めて思ったりして緩んだ頬はまだ引き締まらない。
枡好きの貴女様へ4万打おめでとうございます。
愛を込めて。
20140401