past | ナノ
「おはよ」
そういっていつものように横に並ぶきみ。わたしは電車通学できみも電車通学。たまたま電車の時間が一緒で話したきっかけは覚えてないけど気づけば最近毎朝こうやって一緒に登校してる気がする。
「ねえアキラくん」
「ん?」
「やっぱなんでもない」
なんだよ、って笑うきみ。ああ、たしか二年生だよね?って電車で話しかけられたんだったかな。今週の英語の単語テストの範囲わかる?って聞かれたんだと思う。アキラくんと学校で話すことはない。朝電車で会って一緒に学校に来て、おわり。なに考えてるのかわかんない。好きなの?その前にわたしはアキラくんが好きなの?それもわからない。
「なーに難しい顔してんの」
「アキラくんって不思議だなあって思って」
「どこが?」
「ぜーんぶ」
ははは、わけわかんねえ、またそうやって笑う。知ってるよわたし。昨日アキラくんが女の子から告白されたこと。その結果は知らない。だけどそれを見たとき思ったんだ、明日もわたしと一緒に学校行くのかな?って。別に一緒に学校に行く約束をしたわけでもないから。関わる前のように他人に戻るだけ、だから。
「アキラくん」
「なんでしょうかみょうじさん」
下駄箱で靴を履き替える。ローファーからクロックスに履き替えて、アキラくんを待つ。人がそこまで多い時間じゃないから、この時間に来るのが好きだ。
「おひとつ、質問」
「いくつでも」
「昨日の告白はどうされたのですか」
「知ってたんだ」
「風の噂とやらで」
「あー、まあ断った」
三年生の教室は一階だから風通りがよく夏は心地よくて涼しく冬は極寒だ。
「あと、もうひとつ」
「おう」
「なんで毎朝わたしと一緒に学校に来るの?」
びくり、アキラくんは背筋をしゃんと伸ばした。あー、とかなんとか考え出している。それがなんだか面白くてつい笑ってしまう。
「えっとな、その」
「じゃあねアキラくん」
一生懸命搾り出そうとしているアキラくんだけど残念ながらタイムオーバーだ。わたしの教室に着いてしまった。アキラくんの教室はわたしよりも奥のほうにある。手を振って教室に入ろうとしたら、すっ転んだ。尻餅をつく。アキラくんが爆笑してる。恥ずかしくなって立ち上がろうとしたら手を差し出された。遠慮なく手を借りる。
「好き」
不意打ち、手を借りたままだからか顔がいつもより近い位置にあって、どきりとする。睫毛長いなあ。手を離してきみのほうを見る。
「明日も一緒に学校行ってくれますか?」
そういうときみはもちろん、と優しく微笑んだ。
20131129