past | ナノ
修学旅行から帰ってきて学年全体が浮かれているのに対し、ゾノに申し訳ないから浮かれてなかったのが裏目に出たのか思いもよらぬ発言をされた。それに怒って午前の授業休みをことごとく無視すると昼休みに友達とご飯を食べているところへゾノがやってきた。

「なに怒ってんねん」
「いや、いきなりいじめられてへんかとか言われたら傷つくでしょ」
「俺はお前を心配してやなあ!」
「うるさい、なにも分かってないくせに」
「はあ?」
「ゾノのばか!ハゲ!」

そう言って友達の輪へまた加わった。修学旅行の話をしたら気を悪くするかな、お土産やっぱりあげたほうがいいのかなとか、そんなことを考えていたわたしが馬鹿馬鹿しくなって午後の授業はゾノの存在を視界で捉えないようにした。
そうして何不自由なく過ごしていたのだけど問題は夜になって帰宅してからだった。いつも明日の時間割を聞く相手のはゾノだったから、携帯を机においてにらめっこする。やっぱり友達に聞こうかなと決意して手にとったとき聞き慣れた着信音が鳴って思わず手からこぼれた。改めて握り直す。

「もしもし」
「俺や、ちょっと出てこい」

そう言われてカーテンを開けると、やっぱり。急いで一階に降りて玄関のドアを開ける。

「自主練いいの?」
「そんな練習ばっかしてられるか」
「そうだね」

なんだか気まずくなって寒いなあなんてことを考え始めるようになった。こんな寒いところで待たせてたのが少し申し訳ない。まあゾノだからあったかそうだけど。

「今日はほんま悪かった」

ゾノの口から出た言葉に驚く。このひとは怒った理由もわからないで謝っているんだろうか。むかつく。ゾノのほうを見ようともしないで下を向く。

「これ、やる」
「なにこれ」

渡されたのは一枚の紙切れ。メモかなにかだろうけど暗くてよくわからない。

「お前のことやからどうせ明日の時間割わからんねんやろ。これに書いといたから、失くすなよ」

ゾノの優しさが身に沁みる。なんて非道いことをしたんだろう。つまんないことで怒って意地はって、なのにゾノはいつも通り優しくしてくれて。

「あと、修学旅行の土産話そろそろしてくれへんと聞かへんぞ」

ほんじゃあな。そう言って片手を上げて自転車に乗ろうとしたゾノを引き止める。ちょっと待っててね、そう言って家の中に入ってバタバタと二階に駆け上がる。

「なんやこれ」
「修学旅行のお土産。ほら」

そう言って自分の左腕を出す。わたしの手首につけているブレスレットとゾノとお揃いのものを買った。少し嬉しそうに笑ったゾノは「ほんじゃあな」と言って嬉しさを誤魔化すようにわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でて自転車で帰って行った。その次の日からゾノの左腕にはわたしと同じブレスレットがあったのを見つけたとき、わたしは優しくないから嬉しくなったなんて言ってやらない。





20131120
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「見えない臓器の名前は」
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