past | ナノ
同じクラスの田島くん。人気者で明るくて声が大きくてはきはきしてる。こんなわたしなんかにも話しかけたりしてくれる、優しいひと。
同じクラスのみょうじ。いつもニコニコして仲がいい女子と話してる。他のクラスのやつと話してるのはあんまり見ねえけどしのーかとはノート貸し借りしたり話してるのをたまに見る。どうやら中学が同じで家も近いから一緒に登下校したりしてるらしい。
いつも泉くんや三橋くん、浜田くんと一緒にいて野球部で4番を打っているらしい。4番ってどれくらいすごいのかわかんないけど前に千代ちゃんに聞いたら「チームで一番打つのが上手なひとが4番になるんだよ!あと、チャンスでもこの人に回ったら絶対点をいれてくれるっていう信頼されてるひとなんだよ〜」って教えてくれたから田島くんは本当すごいんだなあと思う。
しのーかにみょうじってどんなやつだったの?と聞いたら「すごく笑顔が可愛くてね、賢くてなんでも一生懸命な子だよ」と答えてくれた。ふーん。俺はクラスであんまり笑った顔見たことないなあと思いながらその日から少しずつ意識してみょうじの笑顔を盗み見ようとした。でもあいつが笑った顔は見れなかった。いつも寂しそうな顔をするんだよなあ。ほんとの笑顔っていうの?それを見れなくて歯がゆい思いをしていた。
わたしなんかと大違い。
俺と全然違うからきっと気になってたのかもしれねえ、なんて。
わたしは地味だし、クラスでも自分の意見をちゃんと言えないし不細工だし信頼なんてされてない。だから田島くんを見てるとどこかで嬉しくなって、そしてどこかで羨ましくてこんな人になれたらって何度も思った。
「俺、みょうじのこと好きだ」
みょうじが不安に押しつぶされそうな顔をして俯いている。俺はたまにしてるこの顔が見たいんじゃなくて、そうじゃなくて。
真っ直ぐな視線を浴びて体に貫通して穴が開いちゃいそうだと思った。わたしなんかを?田島くんが?なにかの間違いだろうとも思った。けれどここにいるのはわたしと田島くんだけで、そして田島くんが言った名前は私の名前で。
泣いている。俺の目の前で。泣かそうとしたわけじゃねえのに。気づいたら行動してた。
田島くんが一歩だけ近づいてわたしの頭を撫でた。なんでなんだろうそう思いながら見上げると「なんで泣いてんだよ」って笑いながら田島くんは言った。そして自分が泣いてることに気づいた。なんでなんだろう。わかんないや。
「田島くんがすきです」
きっと田島くんがすきだから、嬉しくて泣いてるんじゃないかな。わたしと全然違う田島くん。顔を真っ赤にしてほんとか!?って言いながらにやにやしてる田島くん。可愛いなあ、なんて思ったり。すごくすごく胸が田島くんでいっぱいになって、今はなんとも言えない気持ち。
みょうじが笑ってる、今までに見たことのない笑顔で。きっとしのーかが言ってた笑顔はこれなんだろな。しのーかが先に知ってるのは少し悔しいけど、聞いてた通りやっぱりこいつは笑顔が一番似合ってて可愛いかった。
*
あのあと田島くんと一緒に帰って家まで送ってもらった。家に着く間際で田島くんのお家はどこなの?と聞いたらチャリで一分!と言うので申し訳ない気持ちになった。それが顔に出ていたのかまた頭を撫でて「俺がしたくてそうしてんの!」と満面の笑みで答えてくれた。すこし彼氏彼女っぽくて嬉しくて。わたしも笑顔になってたらしく「俺なまえの笑顔すき」と真面目な声で言われたから照れすぎてもう10月なのに身体中が熱くなった。田島くんを見るとしてやったり顔をしていたので帰る間際に「ありがとう悠一郎くん」と言うとこっちを見て手を振ったあとに自転車ですごいスピードで帰っていった。そんなわたしたちの恋の始まり。
Happy Birthday田島悠一郎
これからもわたしのヒーローでありつづけてください
20130916