past | ナノ
中学のとき辛いなあ、とか思うときは気づいたらいつも東条に電話をかけていた。本当に些細なことだけど「うんうん」って聞いてくれてそれで何かが解決するわけじゃないけど、聞いてくれるだけで心の中のドロッとしたものが浄化されるような気がして、それでいつも気づいたら電話をして聞いてもらっていたのだ。
別に今日は辛いことがあったわけじゃないけど久しぶりに東条の声が聞きたくてコールボタンを押した。3コール目で東条が出る。
「もしもし」
「東条?いま大丈夫?」
後ろでガヤガヤしている声は一人だけじゃなくて数名の男の人がいるんだなあと思う。そういえば寮暮らしだっけ。東条とは高校が違うからわたしにはあまりわからなかった。
「もしもし、みょうじ?」
「あ、ごめん。たくさん人いるよね」
「いや大丈夫なんだけどさ、っておい!!」
東条が一際大きな声を出すからなんだろうと思ったら次に話したひとは東条じゃない、低い声の男の子だった。
「東条の彼女?」
「え?違います、けど」
そういったらまたガヤガヤして携帯がいろんなひとの手に回る音がする。でも意外なことに次に出たのは東条だった。どうやら取り返したらしい。
「ごめん、場所移動するからちょっと待ってて」
「あ、いやそうじゃなくて!今日は話聞いてほしくて電話したんじゃなくて、久しぶりに東条の声聞きたくて」
「みょうじ、来週の日曜暇?」
「暇だけど」
「練習見においでよ」
そう言われてなんだか照れ臭くなって場所と時間を聞いて電話を切った。東条に会うのいつ振りだっけ。誰誘おうかな。なに着て行こうとか考えたりして。来週の日曜日が楽しみで仕方が無い。なんだ、これじゃまるで東条が好きみたいじゃないか。でもそれに気づくのはもう少し先のお話。
ゆるり様リクエストでした
20130929