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*未来設定


プルルルルと着信音が鳴って発信者の名前を見ると、球界のプリンスこと成宮鳴だった。前回話したのはいつだっけ、二週間前か一ヶ月前か。忘れたけど結構な時間が経っていた。
オフの日もあるでしょーが、なんて思うけどきっと雅さんとキャッチボールをしてるのが楽しいんだろう。以前、キャッチボールと言ったら鳴はいつも投球練習って言ってよね!とブーたれていた。

「もしもし」
「なまえ?」
「うん。そうだけど」
「今ヒマ?」

失礼なやつだなと思いながら、無言を肯定と取ったらしい鳴はじゃあ今からいつもの河原ね!と言ってプツッと電話を切られた。台風みたいなひとだ。
着替えて、薄めの化粧を施し、鍵を閉めて河原へ行くと時刻はもう夕方だった。

「遅い。」
「遅いといっても電話終わってから30分しか経ってない」
「ね、隣座りなよ」

河原では鳴が小学校のときに所属していたと鳴が言っていた野球チームが練習をしていた。小学校の頃と言えば、わたしはまだ鳴に出会っていない。その頃の鳴も見てみたかったなあなんて思いながら、必死で練習する野球少年たちを見ていた。

「みんな一生懸命で可愛いね」
「そうだね」

何やら鳴は考えごとをしているようだ。いつもだったら、俺のちっちゃいときのほうが絶対可愛いかったとか言いそうなのに、今日は違った。

「あ!成宮じゃん!」

鳴を見つけたらしい小学生がわらわらとこっちへ駆けつけてきて、一気に周りには人だかりが出来ていた。サインしてよ!とか握手して!とかいう声に鳴は一々「しょうがないなあ」とか言いながら応えてあげていた。その姿を見てそういや鳴は子供が好きだったことを思い出した。高校2年の保育実習先で保育園児にたくさん囲まれていた記憶がある。

「何笑ってんの」
「いや、高2の保育実習を思い出して」
「そんなこともあったね」

隣を見ると鳴の色素の薄い髪が夕日に綺麗に染まっていて、テレビの中の人なのにとか新聞の中の人なのになんていつもは思うけれど、今隣にいる男の子は紛れもなく私の大好きな、数年前となんら変わりのない彼なもんだから少し嬉しくなった。

「ねえ、なまえ」
「ん?」

いつの間にか子供たちは帰ってしまっていて、河原にはわたしたち二人がポツンと座っているだけだった。

「俺、子供は女の子二人がいい」
「男の子はいらないの?」
「いらない」

意外だねえなんて言うとなまえは?と聞いてくる。

「男の子と女の子どっちも欲しいなあ」

鳴に似て少しやんちゃな男の子と、鳴に似て可愛いらしい女の子と。

「おまえ、意味わかって言ってる?」
「え?」

はぁ、と大きな溜息を吐いてどうしたのって聞くと鳴は疲れた、と一言言った。

「なまえ、左手」
「え?あ、はい」

差し出すと鳴の右手がわたしの左手に添えられて、薬指にはめられる綺麗に光ったリング。

「今日、なんかの記念日だっけ?」
「本気で言ってる?あのさ、普通左手の薬指に指輪はめられたらわかるでしょ。結婚指輪!」

けっこん、ゆびわ

「え、」
「ね、なまえ。結婚したら、家に帰ったら美味しいご飯作って俺が帰ってくんの待ってるなまえがいてほしいし、なまえと子どもと毎日一緒にいたい。俺の願い叶えてくれるよね」

鳴は少し恥ずかしそうに顔を赤くして、いつもみたいに上から目線で、だけど自信たっぷりな表情でそう言った。何でよりによって河原で、なんて思ったけれど、ここはそう言えばわたしと彼が付き合った場所でもあって。今までの鳴との思い出が走馬灯のように脳裏に過った。

「よろこんで」

そういって笑ってみせた声は涙目だからか少しうわずっていた。





20130622
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