past | ナノ
なんだか目が冴えて妙に寝れない。布団の中でそわそわしている時に、決まって抱きつくクマのぬいぐるみ。洋一と行った最後のデートの場所で買って貰ったものだ。
真っ暗な闇の中で、枕元が光る。どうせ友達がこんな時間にLINEを返してきたのだろう、そう思ってケータイを見ると洋一からの着信だった。
「もしもし、」
「おまえも起きてたのかよ」
「洋一こそ珍しいね、寝れないの?」
「まあな」
お互い特にこれと言って話す内容がある訳でもなく、ただこの機械の向こうから洋一の声が聞こえる、それだけで十分だった。電話の向こうで寒いと小さな呟きが聞こえた。
「雨、降ってるもんね」
「明日の練習は間違いなく中練だろうな」
「おつかれさまです」
電話の向こうからも雨音が聞こえる。どうせ洋一のことだから、また薄着で自販機の横のベンチに座って電話をしているんだろう。
「クラス替え楽しみだなあ」
「文系理系でクラス別れること決まってんだろ」
わたしは文系、洋一は理系。クラスが離れることは前からわかっていたことだった。だからといってそのために同じクラスにしようとは思わない。わたしはとことん数学が苦手で洋一はとことん古典が苦手なのだ。
「よういちくん」
「あ?」
「理系に可愛い子が行くけど、浮気しないでね」
「おまえこそ文系のイケメンと噂になるようなこと、すんなよ」
「ノリくんと仲良くなりたいな」
「そういやノリは文系だっけ」
「そうだよ」
それから少しぐだぐだと話して、おやすみと言って電話を切った。
洋一はわたしが寝れないこと分かっていたのだろうか。それとも、さっき言っていたように、わたしと同じでただ寝れなかっただけなんだろうか。
春休み、はやく終われ。いや、やっぱり課題終わってないから終わるな。なんて矛盾ばかり考える。ああ、でもやっぱり洋一には会いたいなあ、なんて絶対人に言わないようなことを考えて。どうやら、わたしの頭も相当睡眠を要求しているようだ。
そして、洋一の声を聞けたら安心して睡魔が襲ってきたなんて、自分でも吐き気がしそうな甘い言葉を思いついたところで、わたしは瞼を閉じた。
20130403