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130812 成宮鳴

甲子園初戦のきみへ

「甲子園、はじまったね」


機械越しに聞こえるあいつの声。あいつは他校の野球部のマネージャーだから、もう新チームが始まって忙しくなっていて甲子園には来れないけれど、この機械を通じると近くにいる気がするもんだから不思議な感じになる。


「ねえ、来ないの?せっかくかっこいい彼氏様の初戦が明日だっていうのにさ!」


彼女が来れないことなんて重々承知なのに、口からは自分のワガママばかりが発せられて自己嫌悪に陥る。もっと優しく、とか可愛く言えばいいのに、あいつ相手だと素直になれない。ある意味素直だけどね。


「そっか、初戦か。でも鳴だったら初戦だとまだ負けないだろうし。そうだね、決勝戦まで行くんだったらワガママ言ってそっち行っちゃおうかな」


遠回しに優勝してね、なんて可愛くない彼女だけれど、でも何処かでさすが俺の彼女だなあなんて思いながら、笑う。


「まあ、テレビで見ててよ。優勝するからさ!」


携帯越しに頑張ってねの声を小さく聞いて電話を切った。10時間後、俺たちの全国を相手の夏が始まる。明日の夜、おめでとうと嬉しそうに言う彼女の声を思い描きながら、俺は眠る。


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