mmm | ナノ

130715 坂田銀時

吉原一の遊女は銀時が好き

愛していると言った、その言葉は嘘じゃない。彼が好き。彼を愛している。銀髪のふわふわな髪、やさしく抱きしめてくれるたくましい腕、子供みたいに笑った顔。そんな彼もわたしを愛していると言った。

だけど世界は無情だ。わたしは吉原の遊女だし、彼は万事屋というあまりお金の入らない職業の持ち主だった。吉原から出れる条件はふたつだけ。男性に買われてその人の元で暮らすこと。もう一つは病気でここを追い出されること。前者を彼に望むことは出来ないとわかっていたから、わたしも望まなかったし、なによりそんなことを望むよりもただ抱きしめてくれる彼がいたらそれで十分だった。

銀さん以外抱かれたくないと思ったことも何度もあるけれど、わたしはやはり只の遊女であって。遊女というのは知らない男の人にあんあん喘いでなんぼの仕事なものであって。遊女が一人の人を愛することなんて駄目なことなんていうのはわかっている。たぶんわたしの気持ちに日輪は気づいているけれど、何も言われないし、むしろ銀さんが来たわよーなんて声をかけてくれる。本当に吉原の人は優しい。


「銀さん、なにかお飲みになって?」

「あー、じゃあ酒をお酌してくれっか?」


銀さんはあまりお金がないからわたしと寝るのは本当たまにだけだ。いつもはだいたい昼間に日輪に会いにくるときに、わたしも一緒になって談笑している。だから今日は特別な日。たぶん他のお客さんから予約が入っていたのだろうけれど日輪のことだ、ふらっとさっき来た銀さんを優先させたんだろう。

銀さん好きですよ。そんなことを思いながらお酌をする。ふと顔を上げて窓の外を見ると綺麗な萬月がわたしの瞳に映った。


「銀さん」

「んー、どした?」

「月が綺麗ですね、って知ってる?」


小さい頃、わたしがまだ吉原で姉様のお付きをしている頃にある姉様に聞いたことがある。なんでも日本では月が綺麗ですねって言葉は愛しているという意味があるのだと。


「わかんねえなァ」

「そう、じゃあ月が綺麗だね、銀さん」


だから言われてもわかんねーよって笑う銀さんの笑顔が素敵で、だけど何処かで届かないなあなんて思って、ああやっぱりわたしと銀さんは交わらないんだなんて今更なことを思いながらこれから彼に抱かれ、彼に酔いしれ、溺れるのであろうわたしはきっと馬鹿なんだ。


戻る
「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -