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130623 平子真子

後ろからだきしめられる

百年という時間はあまりにも長くて真子を忘れるには十分な時間だったけれど、だれといてもなにをしてても、いつも脳裏を横切るのは彼のスカした表情だった。だから、そのとき聞こえた百年振りの声はきっと夢だと思ったんだ。


「そこのおねーちゃん、なにしてはるんですかァ?」


彼がいなくなってから色々と忙しくなって、日々痩せていくわたしを見ていられなかったのだろう京楽隊長から八番隊に移動しないか、とのお誘いを受けたのは、もう90年も前の話。ちょうどそのときの八番隊の四席が、ご病気になったとかで席が空いていてそこに君がきてくれたら、なんて声をかけてもらった。

もともと『五番隊でなかったら即席官クラスなのにねえ』なんてのはしょっちゅう言われていたし、席官でなかったのも真子に『お前に席官は危なっかしい』なんていう理由でだった。それが真子なりの優しさだというのは八番隊四席の座に着いてすぐに知ったのだけれど。


「わたしは仕事中なので、用なら別のものに言ってください」

「生憎、あんたにしか出来ひん用やねんけど」


一度も振り返らなかった。振り返ったら後悔してしまいそうだから。後ろにいるであろう彼が何処かにまた行ってしまうのではないかと思ったから。


「なあ、こっち向いて」

「嫌、です」

「ほなら向かせたる」


椅子の後ろから抱きしめられて、顔を覗き込まれる。あのとき長かった金色は肩くらいの長さになっていて、改めて彼と会っていなかった月日の長さを感じた。しんじ、そう呟くとぎゅっと抱きしめられていた腕の力が強まる。


「俺、明日から五番隊の隊長するねん」

「また真子の隊長姿見れるんだね」

「なあ、こっち来おへんか」


本当は知っていた。明日から彼が隊長になることを。きっと、こうやって誘われるのではないか、とも。だからわたしは昨日一晩中考えた、その答えはもう心のなかで出ていた。


「ごめんね」


一言そう言うと彼の表情が見えない代わりに小さな溜息が聞こえた。


「そんなこと言うやろ思てたわ」

「八番隊第四席様がいなくなっては、七緒ちゃんも京楽さんも大変だろうしね」

「よー言うわ」


そういって後ろから抱きしめられていた手が離されて、後ろを振り向くと、ちゃんと見えた、変わらない彼。


「ねえ、真子。すきだよ。また真子と付き合いたい」

「あほ、別れたつもりはないわ」




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