ランス



※過度な暴力表現有






ガン、と音がするほど強く踏みつけてやる。その手を。膝の裏を。背中を。…綺麗な顔を。


「う、…ぐあ」

「いたい?」

「…ッ」


キッと睨みつけられる。体の至るところから血が出ていて、鬱血していて、腫れていて、それでもまだ綺麗で、まだまだ壊したくなった。


「ランス」


彼の名を呼ぶ。彼はわたしを睨んだまま、動かない。
ねえランス、なんて綺麗なの、ランス。そう言いながら彼の瞳を覗きこむ。一センチあるかないかの距離になってもランスは動こうとはしなかった。


「ねえランス。なんであなたはこんなに綺麗なのに、あなたにおなじことをされたわたしは汚いのかしら?」

「………」

「あなたは綺麗ね。綺麗なら、全部綺麗がいい。あなたの目に映るものも全部。綺麗がいいわ」


でもそれは難しいようだ。現に彼はわたしを見ていて、綺麗な瞳には醜いわたしが映っている。ああそうだいっそえぐり出してしまおうか。きれいなきれいなお目目。…だめね。ランスが、綺麗じゃなくなっちゃう。


「ランス、わたしを殴って、楽しかった?」

「………ええ。とても」

「そっか。なんでだろう、わたしね、そんなに楽しくないのよ。あなたがあんなに楽しそうにするものだから、てっきり。」

「では、止めて頂けるのですか」

「ううん?わたしはね、今、楽しいからじゃなくて、やられたらやり返すっていうわたしのポリシーに基づいて行動しているだけよ。」

「そうですか。ではわたしもまた、この仕返しをするために耐えましょう。」

「そうしたらわたしは更に仕返しをするわ。ランスはいたぶられるのが嫌いなんでしょ?」

「ええ、嫌いですね。だからあなたは次で殺しましょう。凶暴な犬は好きだが、あなたは少々、凶暴すぎたようだ。」


ガツン、
彼の持ち物である銃で横顔を殴った。


「じゃあわたしは今殺さなくちゃいけないのね」


ランス。ランス。なんでそんな綺麗な目をするの。あなたを今殺すなら、もうその瞳が醜いわたしを映さなくなるなら、やはり今えぐり出して保存しておくべきなのかもしれない。
小型ナイフを彼の右目に近づけると、初めてびくりと強張った動きをしてくれた。
おかしいな。やはりランスのように楽しむことはできない。…だけど、だけど。


「ランス、綺麗」


嬉しい。喜びの感情で、支配されていたのだ、わたしの、心は。
刺さるか刺さらないか、"彼の体に埋まった右目"が最初で最後の恐怖の色を見せた。
ああ、ああ、ああ。



たまらいわ!

(緑の髪には赤がよく映える、綺麗だ。)
(この芸術品を作れたことが嬉しくて仕方ないのだ)







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