一柳弓彦
「なあなあ、名前、お前パンツ何色だ?」
「喧嘩売ってんの」
おはよう、の返事がこれだ、眉間に皺も寄るだろう。こんな言葉も出るだろう。
「いや、なんか警察官たちが名前のファンクラブ作ってるらしくてな、パンツの色が知りたいんだって」
「弓彦はそれを普通に聞いて照れとかないの?恥ずかしいとか思わないの…?」
「…ん?………う、わ!うわわ、ご、ご、ごめんっ!」
「ごめんの前によく考えてから行動してよほんとに」
弓彦は可愛い。可愛いんだけど、考えが足りなさすぎる。そこが可愛いと言ってしまえば無限ループをさまようことになるのだが、まあ、足りないのだ。 わたしは無類のかわいいもの好きであって、検事室にはぬいぐるみや人形やレースがいたるところに飾られている。そんなわたしがこのぴよぴよ検事の存在に耐えられるはずがなく、初対面でいきなり抱きついたものだ(なつかしい)。
「なあ名前、最近オレに冷たくないか?」
ごめん、に、いいよ、が返って来なかったことが不満らしい。子供か。嫌いになったのか?と唇を尖らせてこちらをみてくる弓彦。
「そんなことないよ、弓彦可愛いから好きだよ」
「好きなら優しくしてくれよ!」
「優しいじゃん!わたしあんまり検事室に人入れたりしないのよ?」
「でも、でも、名前、はじめのほうはよく抱きついてきた!」
なんだなんだつまり抱きついてほしいのかかわいいな。 にやけながら弓彦をぎゅう、と強めに抱きしめると、うぐ、という声がきこえたかわいい。
「言ってくれればいくらでも抱きしめてあげたのにー」
「う、う、苦しい」
「ごめんごめん」
少し腕の力を緩めた瞬間だった。ぐらりと体と視界が揺れて、まばたきしたら、次にわたしのまえに広がっている世界は天井と弓彦しか見えない世界で、 え、え、つまりなにがおきた、の。
「………ごめん!名前がいきなり力緩めると思わなくて、あの、苦しかったから、突き飛ばしちゃって」
「あ、あ、ああ!そっか!ごめんごめん、」
そうか突き飛ばされたのか。そうかそうか。 そんな考えとは反対に、私の網膜には一瞬だけ見えた弓彦の真剣な顔が焼き付いてはなれなかった。 そうか彼はあの一柳万才の息子だった。まさか、…計算?だとしたら、どこから、が?
かわいい?ひと
(ゆ、弓彦) (ん?なんだ?) (…なんでもない)
(仕方ない、騙されてやるか、)
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