一柳弓彦




「う、う、ゔああああああ!!!」

「え、ちょ、なに」

ユーレイがでたんだよ!ユーレイだぞユーレイ!!
電話越しにそう叫んでいるのは新人検事、一柳弓彦。
幽霊などという非科学的なものを信じていない私はどう返していいか分からず、とりあえず落ち着こう、と口にだした。

「なに言ってんだよ苗字!おち、落ち着いてられるかよ、ユーレイだぞ!」

「なんなんですか一柳さん迷惑電話なら後にしてください忙しいので」

「えっ、忙しいのか?ごめ・・・う、いやでもオレも一大事で・・・・」

「はいはい馬鹿乙。んで何、またあんたは家の前にいるの?」

「よくわかったな!さては苗字もユーレイか!?」

などと馬鹿丸出しのセリフと共に聞こえてくるのはインターホンの音。
困ったことにこの男は何かあるたびに家に直接押しかけてくるのだ。
(迷惑極まりない)(実に迷惑極まりない)
ドアを開けてやればびしょぬれの一柳。外は雨が降っていたようだ。

「なんでそんな捨て犬みたいになってんの」

「お邪魔します!!」

「ねえ頭ふいてから入って汚れる」

「ひでえ!いや・・・うん、ふくけどさ」

貸してやったバスタオルでわしわしとふいたあとに、ぶるぶる、と頭を横に震わせる姿はまさしく犬のようだった。やわらかそうな毛がぺったんこ。

「なあ、これ明日の弁護の資料?」

「うん。なに、傍聴くるの?」

「うん!明日は空いてるからな!絶対勝てよ!」

「それ検事が言っていの?」

「・・・・・・」

「っていうかユーレイじゃなかったの」

「・・・・・・・・・お?・・・・おお。」

「おい」

ごめん遊びに来たかっただけなんだ、なんて素直にストレートに言ってくるもんだから、
・・・この馬鹿に、今回は負けてやるとしよう。



もしかして計算してるの?

(でもユーレイも見たんだぞ!)
(へえ。どんなんだった?)
(オレみたいだった!でかくて真っ黒だったんだ!!)

(・・・・は?)(それまさか影とかいうオチじゃ)



(こいつ素だ)




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