猿代草太




「ああああああ!ルーサーがまた私のチラチン苛めてる!!」

「えっ、えっ、また!?ダメだよルーサー、チラチンが痛がってるってば、あいたたた、ボクまで引っ掻かないでよ、いたた、!!」

「み、みんな離れてて!ルーサーは草太の言うことしか聞かないから、


・・・・・・行ったよ」

「ん」


草太は演技に疲れるとルーサーにチラチンを襲わせ、私に話を合わせるように言ってくる。
どうやら最近はその頻度が多いようで、草太の裏の顔を知っている私としては心配で仕方がないのだ。


「大丈夫、草太?チラチン枕にして仮眠でもとる?」

「んー・・・大丈夫」

「なら、いいんだけど。」


チラチンを差し出しつつの提案は却下されてしまい、腕は行き場を失ってしまった。
仕方がないのでそのままチラチンを膝にのせて喉の下をくすぐる。
(ぐるるる。と甘えた声を出すチラチンは本当に可愛い)


「ね、名前」

「どうしたの?」

「やっぱ枕いるわ。疲れてるみたいだし」


そっか、じゃあ、はい、チラチン。
2度目のチラチンを差し出しつつの言葉はそのままスルーされることになる。
草太はあろうことかわたしの膝に頭をのせたのだ。
(なん、え、なんだ!?どどどどうしたの草太!!ほんとうに!!)
あーとかうーとか言いながら動くので、草太の細い髪の毛が腿や膝に当たってくすぐったい。


「あはは、草太くすぐったい」

「名前はもうちょっとだけ痩せた方がいい」

「あはは、チラチン顔の上に落としちゃうよ?」

「ムリムリ。絶対ムリ」


しばらくわたしも草太も何も言わずに過ごしたのだが、キィ、とルーサーが鳴いたのを皮切りに草太は心中の不安を吐露しはじめた。


「あのさ。オレ、不安なんだ。正直。うまくいくかなんて分かりゃしない、5分5分の賭けだよ。・・・復讐自体のことじゃない。もしオレが捕まった時とかに、名前を逃がす方法が、逃がせる確率が、不確かすぎるんだ」

「私は何度も言ってるでしょ。逃げる気なんてないんだって」

「逃げてくれなきゃオレが困るんだよ。だって名前は正真正銘、オレが巻きこんで、無理やり協力させてるようなもんだし。名前は捨て駒として考えたくないんだよ。キングでもクイーンでもないルークでもビショップでもナイトでもポーンでもない。名前は名前だろ?」

「草太・・・」

「やっぱり、やっぱりオレは名前と出会うべきじゃなかった。だってオレはもう名前のこと離せないんだ。多分、今だから逃げてって言えるけど、もし実際そうなったらさ、オレ、きっと道連れにする」


だって今だってそこのネコに嫉妬したんだ。醜いだろ?そう言って自嘲気味な笑いを洩らす草太を見て私は何も返せなかった。
何を言えば埋まるというのだ。わたしが知らないころから蓄積されてきた心へのダメージが穴をあけて、草太の心は穴だらけで、そこに数年前にひょっこり現れた私の言葉をあびせればそれで穴がふさがるというのか、そんなことは不可能だ。
ただ、心から溢れてくる言葉を、涙と一緒に無意識に発するしかできないのだ。


「草太」

「うん」

「すき、」

「うん。オレもすき」


ああ、草太がまた泣いている。わたしがその見えない涙を拭ってやれたらどんなにいいか。
・・・なんてできもしないことは、とうの昔に考えるのをやめてしまった。

次に我に返って自分の膝を見たときには、草太は眠ってしまっていた。
久しぶりにみる彼の寝顔は、見ている私がほっとさせられるような、そんなものであった。



き虫ピエロ

(・・・・・・もちきんちゃく・・・)
(ぶっ、ムードぶち壊しじゃん、草太のばーか)

(草太のばか、だいすき)







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